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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第四章:偽りの輝き
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第百三話:学校生活

 ひより的には「入学」なのだが、周りからすれば「転入生」。

 見るものすべてが新鮮なひよりにとって、1ヶ月などあっという間だった。


「理事長先生…校門に草あったよ」


 魔女の推薦で入学した“伝説の転入生”。

 しかも、入学初日に転入式を無断欠席したという前代未聞の事態に、周囲からは誰一人にも話しかけられない。


 教師陣もまた「不用意な発言で首が飛ぶ」と気が気でない。

 結果——ひよりは授業にも出られず、ジャージ姿の理事長先生と草むしりばかりしていた。


「ましろ君は、とても良い子だね」


 草をむしる度に理事長はそう褒めてくれる。

 ひよりにとっては、授業に出られないことなど問題ではなかった。

 むしろ毎日の草むしりの方が楽しい。


「授業は嫌いなのかの?」


 理事長の隣で草を引き抜きながら、ひよりはポツリと答える。


「どこに行けばいいか分からないもん…」


 ひよりも努力はした。

 だが生徒は怯え、教室も授業も誰も教えてくれなかった。


「ならば私とお勉強をするかの?」


 目を輝かせて「うん!」と頷くひよりに、理事長は微笑む。


 こうして毎日、文字の読み書きや計算といった基礎から学び始めた。

 覚えるのは早いが、字を書くのは不慣れで下手。

 ミミズのような字に、ひよりは恥ずかしそうに下を向いた。


「皆が通る道じゃよ。何より、ましろ君が一生懸命書いた字は——きっと誰かを喜ばせる」


 その日の課題は「感謝の手紙を書く」。

 ひよりは、誰に何を書こうか悩んだ。

 奏人、十和子、屋敷のみんな…

 たくさん思い浮かんでも、言葉が出てこない。


「しろちゃん、何やってるの?」


 不意に背後から声。振り返るとレイシスが立っていた。


「お手紙」


 短く答えると、レイシスは「ププッ」と吹き出した。


「ややこしいことは書かなくていいんだよ。“ありがとう”が一番伝わる」


 その言葉で吹っ切れたひよりは、次々と手紙を書き出す。

 屋敷のみんなに、紅玉や珠玉に、魔女たちに——

「ありがとう」をいっぱい詰め込んだ。


「レイシス、ありがとう」


 全てを書き終え、レイシスに1枚の手紙を差し出す。

 にっこり笑うひよりに、レイシスも笑顔で受け取った。


「どういたしまして——」


 その瞬間。


 キィンッ


 空気を裂く音。

 レイシスに向かって飛んできたのは、鋭いナイフだった。


「——っ!」


 ひよりは咄嗟にレイシスに飛びつく。

 体勢を崩し、2人は床に転がる。

 だがナイフはかすりもせず、床に突き刺さった。


「気に入らないわね、転校生」


 声の主は、ピンクと青のメッシュの入った短髪の女性。

 校内の誰とも違う、異様なオーラを放っていた。


「しろちゃん…バレちゃダメだ…」


 レイシスが、かすれる声でひよりに囁く。


「花園愛莉——魔女だ。」


 名前に聞き覚えがあった。

 確か、オークションのイメージキャラクターを巡るトラブルで話題になった女優だ。


「なんで気に入らないの」


 真っ直ぐな目で問うひより。

「バカ!」とレイシスが止めるが、もう遅い。


「その目よ——」


 愛莉の綺麗な顔が、苦虫を噛み潰したように歪む。


「私の魔法が効かないなんて。…魔女の寵愛は本当みたいね。」


 ギラリと光る瞳に、ひよりは微動だにしなかった。


「特別講義に招待するわ」


 愛莉はズカズカと歩み寄り、座り込むひよりの腕を掴む。


「魔女様、珠玉の魔女を敵に回すつもりか…?」


 レイシスが一か八かで問う。

 だがその問いは、愛莉の闘志に火をつけるだけだった。


「貴方、私を敵に回すつもり?」


 冷たく、ぞっとするほどの微笑みが零れる。



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