表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤城のアトリエ  作者: 伊織
第四章:偽りの輝き
103/109

第百二話:転入生

「ましろちゃん、いらっしゃーい!」


 初めての学校。足取りは軽く、近づくにつれて頬が緩む。

 校門前に立っていたのは、見知った背の高い男性だった。


「…れいしす、さん」


 名前をカタカナで書くような知り合いもいなかったひよりは、ぎこちなく呼ぶ。

 レイシスはクスリと笑った。


「ましろじゃない。ひより」


 そう即座にツッコむひよりに、彼はシーッと口元に指を立てる。


「魔女だってバレちゃダメなんだよ?本名もどこで誰が聞いてるか分からない。隠してて損なし!」


「入学書類も“ましろ”になってたし」


 ギョッとするひより。

 紅玉が言っていた「まっしーの秘蔵っ子」って、つまり開闢の秘蔵っ子。

 まっしー=ましろ…?


(誰が開闢の名前つけられて喜ぶの!)


 内心ムッとするひより。


「ましろちゃん、略して“しろちゃん”!ね、しろちゃん!」


「しろじゃない!」


 ひよりの抗議も聞かず、レイシスは軽い調子で続ける。


「突然だけど、俺大学組だからさ。学年どころか校舎も違うんだよね」


「…大学って?」


 校舎が違う…?そんな目でレイシスを見る。

「学校=みんな同じ教室」だと思っていたひよりは、一瞬で絶望する。


「しろちゃんは高等部1年生でしょ?今年の1年生は多いから友達たくさんできると思うよ〜」


 そう言って手をひらひら振り、どこかへ去っていくレイシス。


「…どこ行けばいいの…」


 ひよりは校門で立ち尽くした。


「おや、転入生の子かな?珠玉様の推薦で入学するって聞いているよ」


 声をかけてきたのは、ジャージ姿で首からタオルをかけたおじいさん。

 手には大量の雑草。掃除中のようだ。


「それ、やったことある。」


 草を指差すひよりに、おじいさんは目を丸くしてから笑った。


「やってみるかい?」


 ひよりは制服のローブを脱ぎ、柱のそばに置くと、そのまましゃがみこんだ。

 こうして、入学初日から草むしりが始まった。


 その頃、大聖堂では——


「この時期に転入生?9月入学もう過ぎてるよね?」


「珍しいね。どんな子だろう」


「つーか転入式もう時間過ぎてね?つか転入式って何だよ」


 ざわつく在校生たち。

 教師陣はさらに焦っていた。


「噂じゃ魔女様の推薦で入学するから、盛大に歓迎するらしい」


「マジ!?どの魔女様なんだ?」


 歓迎ムードの裏で、生活指導部長の怒声が響く。


「レイシス!!転入生はどうした!!」


「え〜?気づいたら後ろついて来てなかったんだもん」


 軽い調子のレイシスに、生活指導部長は「今日こそ退学にしてやる!」と怒鳴る。

 副理事長も声を荒げる。


「理事長は!?理事長はどこだ!!」


 収拾がつかず、この日の転入式は延期となった。


 夕方——


 屋敷に戻ると、和哉がパウンドケーキを用意して待っていた。


「ひより様、今日は何をされたんですか?」


「学校の木をウサギさんにしてた!」


 目を輝かせてそう言うひよりに、和哉はフフッと微笑む。

 近くにいた智春も、つられて笑った。


「ひより、ちょっといいか?」


 モグモグとケーキを頬張るひよりに、菜摘が声をかける。


「転入式、出なかったのか?兄貴に学校から鬼電かかってきてたらしいぞ」


「転入式ってなんだ…」


 ひよりは何がなんだか分からず、とりあえず頷いた。


 表向きは「他高校からの転入」という設定のひより。

 だが初日から転入式を無断欠席し、伝説を作ったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ