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孤城のアトリエ  作者: 伊織
第四章:偽りの輝き
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第百話:商談

 その後も次々と挨拶にやってくる面々の話を聞き、ひよりは一つ一つ真剣に顔と名前を覚えていった。

 叡智というだけあって、記憶の速度も人並み以上——直哉から聞いていた通りだ。一度聞けば忘れないひよりの様子に、周りは自然と感心する。


「魔女様、今ダメ?」


 数ある団体の半分ほどが挨拶を終え、すでに2時間。

 これでは1日が終わってしまう。

 何より、ひよりは徐々に疲労を感じていて、内心ではもう帰りたい…と弱音を吐きかけていた。


「今は、いい…です。」


 菜摘たちも他団体の応対で忙しく、ひよりの側にはいない。

 ひよりがそっと端に逃げると、そこに先ほどの背の高い男性がいた。


「魔女様、今いくつ?」


「16歳、です」


「俺24!」


 菜摘と同じ年だと知り、ひよりは少しだけ頬を緩めた。

 知らず知らず、相手への警戒が少し和らいでいた。


「魔女様、魔法学院って興味ない?」


 その言葉に、ひよりの肩がピクリと揺れる。

 目が僅かに輝いたのを、男性は見逃さなかった。


「いいじゃんいいじゃん。魔法は私が教えてあげるけど、常識は学校で学ぶのが一番だよね。行ってくれば?」


 紅玉がいつの間にか現れ、背の高い男性に隠れるようにしてひよりに言った。

 彼女もどうやら、団体の多さに逃げてきたらしい。

 周囲では、いつの間にか自己紹介から商談が始まっていた。


「でも、違うところだよ?」


 紅玉にそういえば、「違うところ」の意味がわかったらしい。


 珠玉率いる白百合グループ、魔法学院グループ、教団フクロウ——それぞれ毛色の違う派閥。

 そんな場所に、自分が入っていいものか。そんな不安が胸をよぎる。


「叡智ちゃん忘れてるけど、今世間は大混乱だ。数ヶ月前の新人女優・魔女殺人事件に始まり、開闢と癒しの失踪。珠玉が戦いで腕を失い義手をつけた話もどこかから漏れてる。紅玉や叡智は生死不明扱い。13人の魔女のうち6人が死傷・行方不明だ」


 紅玉はニヤリと笑う。


「つまり今の叡智ちゃんは変装さえしてれば動き放題。学校行けるチャンスだぜ?」


「本当に…行っていいの…?」


 ひよりの声は期待と不安が入り混じって震えていた。

 だが、その目は抑えきれないほどの好奇心で輝いている。


「行く!行きたい!!連れて行って!」


 背の高い男性の腕を掴み、強く引いた。

 彼は「ムフフ」と自慢げに笑った。


「魔法学院グループのカースト最高位にある名門——ルーベルリアがおすすめだ。年中入試をやっているし、なにより…珠玉に開闢、癒しと名だたる魔女を輩出した、惑うことなき魔法の最高峰だ」


 その言葉に、ひよりは急にドキリとした。

 周囲の魔女たちがいかに凄いかを知るからこそ、そこに入れば否応なく彼らの偉業を目の当たりにするだろう。


 自分との才能の差を思い知らされる…

 怯えが胸を締め付ける。

 だが、その奥底に「彼らを超えたい」という野心が芽生えかけていた。


「そこで魔女様に提案!カースト最下位・廃校寸前のリルグノーツ来ない?」


 その瞬間、不思議と口元が緩んだ。

 最高峰よりも、崖っぷちと聞いた時のほうが胸が躍った。


「行く」


 短く、食い気味に告げた。

 男性はニヤニヤと笑い、紅玉は吹き出すように笑い転げた。


「レイシス・()()()()()()。よろしく、ひよこ様」


 差し伸べられた手を、ひよりは強く握った。


「藤宮ひより。ひよこ様じゃない」


 ムッとするひよりの様子に、紅玉が「青春かなぁ」としみじみ呟いた。


 結局、本格的な商談が始まり、紅玉とひよりは部屋から逃亡。

 見かねた珠玉によって、今回の集まりはお開きとなった。


 その夜のこと。

 ひよりは小さな声で呟いた。


「学校…行きたい。」



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