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ハイネルを訪ねて

 ロギンはウォーレンと出会った後、魔物に占領された土地から取り残された人々を逃がすために戦っていた。しかし、厄介なことが2つあった。1つは魔物との戦いで負傷したときに治療する手段が無いということ。傷薬をかけたり宿屋に泊まったりで即座に傷がふさがるわけではないため傷を負うとしばらく行動がとれなくなる。2つ目は、魔物が放つ邪気の問題。魔物の放つ邪気は土地を変化させ人間が食べられる作物を育てられなくなり、邪気に犯された空気は病を引き起こし、呪いを起こす。邪気は人々の生活できる領域を徐々に奪っていた。この2つの問題を解決するために、2人は魔法を使える僧侶を仲間にしようと考えたが、魔法の得とく方法は人から人へと口伝で伝えられるものであるため、魔法を使える人にはそう簡単には出会えなかった。

ロギンとウォーレンはある街の酒場にいた。魔物によって国家は分断されてしまったら、孤立した街は国の助けが得られなくなる。そのため、そういった街の住人は魔物の目を掻い潜って付近の国に助けを求める。しかし付近の国は助けを求められても、自分の国を守ることで精一杯。困った人々はこういった酒場に来て腕の立つ人を探すしかない。そういった依頼を受けて金を稼ぐために酒場には腕の立つ人達が集まっていた。

「…私はここから西に一月ほど進んだところにある小さな村から来たんです…。」

 ぼろぼろの服を着た男が2人に言った。

「残念だが…。俺たちが行く頃にはもう間に合わないんじゃないか…?」

 引き受けたそうなロギンの顔を見てウォーレンが言った。西の魔物の強さはよく知れ渡っていた。

「いいえ…。村の僧侶が結界を張っていて、でも、それももう限界に近く…。」

 男はうつむき、泣き出しそうな顔をしていた。

「僧侶を仲間にできるかもしれないいい機会ですよ…。」

 ロギンが小声でウォーレンを説得した。

「わかったよ…。」

 苦笑してウォーレンは同意した。こうして村人のスレッソを加えた3人は旅立った。

 3人で村に向かって出発してから10日目の夕方。草原を3人は進んでいて、そろそろ歩くのをやめてテントでも張ろうかと考えているときだった。

「ん?」

 ロギンが声を出した。ほぼ同時にウォーレンも身構える。ロギンは経験から魔物が放つ邪気を感じとれるようになっていた。

「どうしたんです?」

 スレッソは2人を見る。

「気配がするってよ…。」

 ウォーレンが小声で言った。ロギンが這って小高い丘に登って周囲を見て、2人に来るように合図を送った。ウォーレンも登って見てみる。

「あ…あ…あいつです。」

 スレッソが確認した。無数のイボのついた黒い甲殻をまとった人間の1・2倍くらいの身長の2本足と2本の腕を持った魔物が、赤い目を光らせて周りを見ながら歩いていた。

「一匹…だな。試しに戦ってみるか?」

 ウォーレンがロギンに言った。

「ああ…やってみよう。あなたはここにいてください。」

「…逃げましょう…。あいつらは剣が利かないけど足は遅い…」

「大丈夫…勝てそうになかったら引き上げます。」

 ロギンは剣を抜き、同じく剣を構えたウォーレンとともにゆっくり丘を降りて魔物に近づく。

「おおおおお!」

 正面からウォーレンが斬りかかる。

がきっ

 甲殻に阻まれて、全く効果がない。

どっ

 後ろからロギンが突いたが、刺さっていかない。

「このっ!」

 ウォーレンが再び斬りかかろうとするが、魔物の方がわずかに早かった。

「おおおお?」

 ふっとばされたウォーレンはすぐに体制を立て直す。ロギンは素早く退いて魔物から離れて向かって叫んだ。

「こいつは強い!引こう!」

「ちぃ…。」

 まだ立ち向かおうとしていたウォーレンも引いた。2人はスレッソと合流して逃げ出した。

「こっちにもいるううう!」

 スレッソが叫んだ。2人が前を見ると走っている先に甲殻の魔物が見えた。2人は剣を構えた。

「逃げてください!」

 ロギンがスレッソに指示し、スレッソは走り出す。しかし、甲殻の魔物は方向を変えて去っていった。

「ん…?どうしたんだ?」

 ウォーレンが拍子抜けした表情を見せてから、石ころを取って甲殻の魔物に投げつける。

コツン…。

「ウォーレンさん?」

「ちょっと試してみてるんだ…。」

 石が当たると甲殻の魔物はこっちに向かって走って来た。

「逃げるぞ…。」

 ウォーレンがそう言って走り出す。ロギンも理解できないが走る。ほとんど進んでいないのに、ウォーレンが不意に止まる。

「ウォーレンさん?何をやってるんですか?」

「あいつ、また俺たちを見失ったんじゃないか?」

 甲殻の魔物はまたうろうろし始めていた。

「視力があまり良くないってことですか…。」

 ウォーレンは頷いた。


 15日で3人は村に到着した。

「なんだあれ!?」

 ロギンが驚いて叫んだ。目的地の村を青白い光がドーム上に覆っていた。

「この村にいるハイネルさんの魔法です。結界を張って進入を防いでいるんです。」

 スレッソはそう説明し、柵で覆われた村の入り口の前で叫ぶ。

「おおーいい!!助けを呼んで来たぞーー!!」

 光のドームの一部分に穴が開き、その穴がしだいに大きくなって人が通れる大きさになった。3人が村に入ると村人たちが集まってきた。振り向くと穴は閉じていた。

「よく来てくださいました!」

 と歓迎する人。

「たった2人か…。こんな小さな村に来るやつは少ないか…。」

 とがっかりする人がいた。


 夜、村の集会場に村人達とロギンとウォーレンが集まっていた。ロギンが村人達に告げる。

「…私達ではあの魔物を倒すことはできません。この村を出て他の国に逃げるべきだと思います…。あの魔物はそれほど素早くもなく、視力も良くありません。私は魔物の邪気を感じ取ることができますから、魔物を避けて進むことは可能だと」

「冗談じゃない!そんな話を聞くために呼んだんじゃない!」

 村人の1人の大柄な男が叫んだ。他の村人達も彼に同意しているらしい顔つきでロギンたちを睨んだ。他の村人達も続く。

「先祖代々この村で暮らしてきたんじゃ!わしらに村を捨てるだと?」

「スレッソ!何で戦えるやつを連れてこなかった!」

ガラガラ

「大変だ!結界が!」

 見張り役の村人が慌てて入ってきた。集会場の村人達も慌てて外に出、ロギンたちもそれに続いた。

 青白い光が弱まり、夜でも明るかった外がだんだん暗くなり始めた。

「ハイネル様!!」

 外に出て愕然としていた村人達がその一言で我に帰って教会に走って行った。ロギンたちも続いた。教会の前で村人が集まり、静かに1人が入って行き、しばらく全員が静かに待った。

「あと…。けっ結界が持つのは…2、3日くらいだと…。」

 教会から戻ってきた村人が青い顔で言った。

「やっぱり村を捨てて逃げるしか…。」

「もう、他の人を呼びに言ってる時間はないぞ…。」

 ざわざわと村人達が話し出した。

ギイイ…

 また教会の扉が開いた。

「ハイネル様…。」

 誰かがそう呟くと、全員が静まりハイネルに注目した。ロギンもハイネルを見た。人に支えられ、頬はへこみ、体は糸と薄い板をつなぎ合わせたようにやつれていた。

「ハイネル様…。我々はどうすれば…。」

 村人の問いにハイネルは顔を作って答える。

「私の…結界はもう何日と持ちません…。話は…聞きました。この村を離れましょう…。生きていれば…いつかこの村に帰ってくることもできるでしょう…。」

 村人達はまた静まった。村の長老らしき老人が言う。

「明日…。出発しよう…。」

 全員が頷いた。

次の日、村人全員が村を出た。ロギンとウォーレンが周囲を警戒しながら進んでいる。魔物が現れたら逃げるため村人はほとんど荷物を持っておらず、誰も会話をせず黙々と歩いている。息を切らした人たちの呼吸のみが不気味に聞こえていた。ハイネルは担架で若い2人の村人に運ばれていて、目を閉じて精神を落ち着けている。もしもの場合はこの場に結界を張らなくてはならないのだ。

「ん…。」

 先頭を歩いているロギンが歩く方向を変え、村人の列も着いて行く。何度も繰り返してきたことなので誰も尋ねないが、方向が変わるたびに村人の表情が曇る。魔物を避けるために、遠回りが続いているのだ。夜は村人にとってさらに恐怖の時間だ。辺りが暗くて見えず、頼りになるのは交代で見張っているロギンとウォーレンの感覚のみなのだ。

「ロギンさん…。」

 ある夜、周囲を警戒しているロギンにハイネルが話しかけてきた。

「ハイネルさん。寝ていたほうが…。」

「大丈夫です…。それより…あなたはなぜ魔物の接近を感じ取れるのですか?」

「…今まで結構魔物と戦ってきたからだと思います。」

「私は…ウォーレンさんは経験で分かるのだと思いますがあなたからは魔力を感じます。あなたは、知らないうちに魔法で魔物の接近を見通しているんだと思うのです。」

「え…?私が魔法を?」

「はい…訓練すれば意識して使えると思います。」

「お、教えて頂けませんか?」

「魔法の訓練は長くかかります…。無事に街に着いたら、教えてましょう。」

 遠回りを繰り返しながら少しずつ、移動は続いた…。高低差のある草原、代わり映えのしない風景の中歩き続ける。年老いた人や子供も、その人たちを助けながら歩く人たちも日に日に口数が少なくなっていった。

「こっちには集団がいます…。こっちに」

 再びロギンが方向を変えようとする。

「もう、うんざりだ!」

村人の1人が叫んだ。1人が叫ぶと、不満が爆発していった。

「何回周り道をしたんだ!いつになったら街に着くんだ!」

「何のために助けを呼んだの?逃げ回るだけなら私達だってできたわ!」

「着いた街だっていつか魔物が来るんだ!だったら今立ち向かおうじゃないか!」

「そうだそうだ!」

 こう沸いてくるとロギンには止めようがない。ウォーレンももともと戦おうと考えていたためか、止めようとしない。

「私達では勝てなかったではありませんか!」

 ハイネルが魔物に向かっていこうとする数人に叫んだ。

「勝てる勝てないじゃないんですよ…。僕達の意地の問題なんです。」

 数人のうちの1人が言うと、湧き立っていた村人が静まり返った。青年が1人、口を開く。

「そうだ…。俺も行きますよ!このまま逃げ回ってるくらいなら立ち向かって一太刀でも浴びせてやりますよ!」

おおおおおおっ

 村の男達が歓声を上げ、それぞれ剣や槍、弓を構え、武器のない人は鍬や鎌を持って魔物の集団のいる方に向かっていった。

「…では…私も」

 ロギン、ウォーレンも仕方なく加わろうとする。

「せいぜい逃げ回ってろよ!お前は!」

 村人の1人が言い放ったが、ロギンとウォーレンは村人の後ろから密かに着いていき、ハイネルは残った村人と一緒に待機した。

「いたぞー!!」

 村人の1人が魔物の集団から離れた1匹を発見した。

うおおおおお!

 男達が大声を挙げて魔物に突撃した。

ガキッ!ガンガン!

 農具や剣、槍が1匹の魔物の殻にぶつかって弾かれる。魔物は一瞬身を縮めて防御し、反撃に転じる。魔物の腕が1人を持ち上げて放り投げる。

「おわわあああ!うあ!」

 投げられた男は天高く舞い上がって地面に叩きつけられた。

「このやろ」

 青年が振り下ろした剣を魔物は簡単につかみ、そのまま男の腹に蹴飛ばす。

「っ」

 男は叫ぶまもなく車輪のように転がり、村人達は恐れをなしてその場に固まってしまった。魔物は平然と近づいてくる。

「ひっ…」

 固まった村人は動けない。

「このおおお!」

 ウォーレンが盾で魔物にぶつかり、そのまま体重をかけて魔物と一緒に倒れこむ。

「逃げろ!」

 ロギンが叫び、村人達が我に帰って走り出す。が、すぐに止まってしまった。

「あんなにたくさん…。」

 1人が顔を真っ青にする。魔物の集団が周りを取り囲んでいた。

「1点を突破しましょう!ついて来てください!」

 ロギンが叫んで魔物の集団にぶつかっていく。村人達も一瞬遅れて、ウォーレンも何とか起き上がって、集団に突っ込んで行った。ロギンとウォーレンと他数人の村人が、先ほどのウォーレンを見習って魔物を押し倒して道を開き、その隙に他の村人達が脱出する。

「ぐっ!」

 倒れこんで押さえつけていた魔物がロギンを跳ね除ける。仰向けに転がったロギンは、自分を覗き込んでいる3匹の魔物の赤い目を見て慌てて起き上がる。

ガツッ

 起き上がった体に魔物の腕がぶつかってきて、3歩分程吹っ飛ぶ。霞む視界を首を振って元に戻し、逃げていく村人達を見つけて走り出す。頬を汗と血が伝っていくが気にする余裕はない。

(あと少し逃げれば!あいつらは俺が見えなくなる!)

 そのとき、左目の端でうずくまっている村人と攻撃する魔物を捕らえた。

(くっ!)

 即座に方向を変え、盾を構えて魔物に突進して魔物をひるませ、自分は体制を崩さないようすぐに足でブレーキをかける。急いで村人の体を起こし、気を失っていないことが分かると、何も言わずに手を引いて走ることを促して一緒に走り出す。


「ぜえ、ぜえ…。」

 ロギンもウォーレンも村人達も疲れ果てて座り込んでいる。

「大丈夫でしょうか…。」

「はい…。どうにかまいたようです…。」

 ロギンは村人に息を切らしながら答えた。その間、ウォーレンも村人達と同じように座り込んで反省していた。

「…ハイネルさん…大丈夫ですか?」

 ロギンは怪我をした村人を回復しているハイネルを見て言った。

「ええ…。私にできることはこれくらいしかありませんから…。」

 それから、村人は何も言わずロギンたちについていった。2ヶ月以上をかけてどうにか無事に街に着くことができた。

「ありがとうございました…勝手な行動に走ったときもあった我々を…。どうお礼をしたらよいか…今は何もできませんが…いつか…。」

 村長が2人に礼を言った。言い出せずにいるロギンを見てウォーレンが言った。

「…我々はこれから魔王に苦しめられている人たちを助け、魔王を倒したいと考えています…。そのために、傷を癒し、魔物の邪気を祓う魔法を使える人が必要です。ハイネルさんを我々の仲間にいただけませんか?」

「私は村の方々と一緒にいます。ですが、ロギンさんに魔法をお教えします。」

 村長が話すより前に、ハイネルが答えた。言い返そうとするウォーレンをロギンが制して、その場で2人は村人と別れた。

 ロギンとウォーレンが去っていってから、村長がハイネルに話す。

「我々はなんとかやっていけます。どうかあのお2方とともにその力を世のためにお使いくだされ…。」

「…私は、自分の生まれ育った村を守れませんでした…。この街にもいずれ魔物がやってくるでしょう…今度こそ私は村の人達を守りたいのです…。」

 そう言って去っていった。

 夜、ハイネルは街の病院で魔力を使い切って疲れた体を休ませ、眠りについていた。

「…ハイネルよ…。」

 どこからか声が聞こえてきてハイネルは飛び起きた。

「誰だ?」

 声はハイネルの言葉を無視して話を続けた。

「あの2人とともに旅をするのだ…。村の人達は我が力によって守られるだろう…。」

「あなた様は?神様なのですか?!」

 尋ねても声は返ってこなかった。ハイネルは黙って考え込んでいたが、しばらくすると眠りについた。

 次の日の朝、宿のロギンとウォーレンが泊まっている部屋にハイネルがやって来て言った。

「昨夜、『神様の声』を聞きました。あなた達と一緒に行くようにと…。」

 同じ頃、宿に向かって歩くハイネルを見た村人達が話していた。

「うまくいったかねえ…。」

「ばれてたかも知れねえ…。でも我々の気持ちが伝わればいいんだ。」

「もう村は失ったんだ…。我々は、後は逃げ続けて生き延びることはできる。」


 ハイネルを仲間に入れてから、回復ができることで強い魔物にも躊躇せずに挑めるようになったことで、ロギンもウォーレンも飛躍的に強くなっていった。さらにロギンも簡単な回復の魔法を使えるようになって、2人が回復に回って強い魔物でも長期戦に持ち込んで疲労させて倒すことができるようになった。このあたりから、せいぜい人々を魔物から逃がすことしかできない賞金稼ぎから、魔王の支配から人々を解放し魔王に挑む勇者としてロギンたちは変わっていった。


(ハイネルさんが来てから、魔王討伐が本当に始まったような気がするな…。)

 昔を思い出しながらロギンは村に向かった。魔王が倒された後、村人たちが村を再建したという話を聞いていたため、ハイネルもそこにいると考えていた。

「ロギン様!」

 村にロギンが入ると、村人達がたくさん集まってきた。

(正直…今の自分では…こっそり行動したかったんだけどな…。)

 この日の夜は村人達に盛大に歓迎された。自分の現状については話さなかった。ハイネルが見当たらなかったので聞いてみると、

「ハイネル様は、この村から離れて東に向かわれまして…。魔王が倒されたというのに、東では紛争が絶えないことを嘆いておりまして…。」

 ということだった。次の日、ロギンは村を出て東に向かった。

(…。ウォーレンのことがあるからなあ…。)

 気が重くなりながらも、移動の魔法を使って浮き上がり、飛んで行く。まずは国境に近い街に情報を集めに向かった。

 街の人に東の国の状態について聞いてみた。

「危ねえぞ、あの国は。こっちにも毎日難民が押し寄せてきてよお…。」

「宗教の対立だとよ。なんとか派となんだか派の。魔物が大勢いたころは停戦してたらしいんだけどな。いなくなったらまた再開だ。」

(…街の人の反応がウォーレンのときと同じか…。無事でいてほしいな…。)

 街を出て再び移動し、1週間ほどで国境を越えて東の国に入り、さらに数日後、前方に集団を発見した。

(避難民の集団…。?あれはハイネルさんじゃないか?)

「ハイネルさん!」

 ロギンが着地して声をかけると、ハイネルは驚いて振り向いた。

「ロギンさん?お久しぶりです!!」


 夜、避難民達はそれぞれテントを建てていて、ロギンとハイネルはテントの中で話していた。

「私は、魔王がいなくなれば人々は苦しみから解放されると思っていました。しかし、魔王がいたことで抑えられていた対立が再び起こって、魔物ではなく人に追われる人たちがたくさんいるのです。私の村からあなたとともに魔物から逃げていたころと、この内戦から避難している人達…同じようなものでしょう…?」

「…。はい…。」

 ロギンも思い返していた。そして、言い出せていなかったウォーレンのことを話した。

「…。ウォーレンさんも、内戦下の人々を救おうとして…。」

「……そうだったんですか…。」

 ロギンはウォーレンのことについて、自分の考えを話さなかった。

(ハイネルさんは純粋にこの人々を助けようとしている…。ウォーレンのことについて自分の考えを話して…誤解を与えてしまうかもしれない…。何より単なる想像だし…。)

「…ハイネルさん…僕は…。」

 ロギンは魔王を倒してから自分が進むべき道を見失っていることを話した。

「……。あなたが戦おうとしなければ、魔王は今もこの世界を支配していたでしょう…。使命は十分に果たされました…あなたは、あなた自身の幸せを求めるべきだと…そう思います。」

「ハイネルさんは、今もこうして…。」

「これが私の幸せなんですよ。」

 ハイネルは笑顔だった。


 ロギンはハイネルと別れて、また移動の魔法で飛び立った。

(僕は、ハイネルさんのようにはなれそうにない…。あんな笑顔は作れそうにない…。)

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