96-100
96お皿
お皿の胎内に
すごく小さなお皿があって
それは卵になって
電子レンジで暖めてやると
殻を破って
小さなお皿が出てきて
やがて育つと
サナギになり
陶磁器の皮を破って
湿った柔らかい皿になって
羽化して
飛んでいった
花に纏わりつくように
飛ぶ皿に
インスタ映えすると
少女たちがスマホを向ける
97距離感
距離感がわかってない
大谷翔平の場外ホームランくらいの
距離で良いのか
それはもう嫌いというくらいの
距離じゃないのか
会う間隔がわかってない
名探偵コナンが事件に遭遇する頻度でいいのか
それは会いすぎじゃないのか
わからないことばかりがあって
わかることが少ないこともあって
楽しいね
98ドラえもん
軽やかなデブ
明るい悪魔
涼やかな貧乏神
口ごもる神様
貧相な天使
反論できないキリスト
どうしたっていい
どうだっていい
どうもこうも
好きにしたらいい
色彩が泳いだっていい
線描が立体だっていい
四次元がポケットの中に
なくたってドラえもんだ
偽作のドラえもん
藤子不二雄Aの原作だ
99子猫
可愛かった
子猫が
大人になって
行き遅れて
ぐだっている
大人は大人のままで
子どもは今日も
子どもではしゃぐ
刻と時は
逆さまに逆流している
栄えているところと
しぼんでいるところに
幾つもの風船が浮かんでいる
そんな地の表面で
音楽はどこでも音楽のままで
心の不存在の証明になっている
家入レオは顔で聴く
クラシックは座って聴いている
100リスカ少女
少女がいる。
存在感が左に大きくズレている。
左腕を見せてもらう。
刻まれて修復されてを繰り返して、
凸凹している。
リスカ痕だった。
少女は指を指す。
指した向こうにあるのは、
不能な妄想がぼんやりと
光を放っている歌劇団。
その行く道は間違っていて、
明後日の方向だが、
教えていいものやら、
わからないでいる。
ついて行っても、
晴れやかで過激な街のなかという、
荒野が続いているだけだ。
そこで努力しても何にもならないが、
努力している姿を見ると、
痛々しい。
明るく暗く。
暗く明るく。
太陽と月が、
白と茶色の影を写し出す。
ネガとポジで交互に刻まれていく時間軸。
暗闇に光合成する感情。
言ってることは稚拙で階段状の螺旋トリック。
賢くても頭が悪い。
酒と音楽がシーソーして,
楽しそうに笑っている。
周囲が視ている。
はげしく やさしく
それは正解だが間違えている。
不正確な角度から投げられる言葉の数々。
受け止め切れない暴投の数々。
不機嫌が幕を開けて、
愛情が幕を閉じる。
終わりが始まり、
始まりが終わる。