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短編集  作者: 斎木リコ
3/7

捨てられないもの

お題「ぐちゃぐちゃ」

 部屋の片付けをしなければならなくなったのは、実家をリフォームする為だ。建て替えじゃないんだよ、あくまでリフォームするだけ。


 私の年齢分、築年数がいってるからねえ。ここらできちんとリフォームしておかないと、この先住めなくなるっていうからさあ。


 今回やるのは、二階部分。一階部分は二年前にキッチン、トイレ、洗面所、風呂の入れ替え、それと居間を畳からフローリングに変えるリフォームを行った。


 そして、今回は二階をやる。納戸をトイレに、洋室二間の床と天井の張り替えをする予定だ。


 使い勝手がよくなるのはいい。問題は、二階は一階以上に物が多いという事。特に洋室の八畳間は、ぐちゃぐちゃだ。


 もう、本当にぐっちゃぐちゃで、どこから手を付ければいいのかわからない程。これ、何でこんなに物が増えたんだろう?


 この部屋、一度兄が家を出た時に片付けてるんだよ。私が。


 ええ、何故か巣立つ兄ではなく、家にいた私がやる羽目になったよ。その時も、たくさんの物を置きっぱなしにした兄を呪ったけど。


 それはともかく、一度は綺麗にして使っていたのに。いつの間にかまあたぐちゃぐちゃに。


 きっと、この部屋にはそういう呪いが掛けられているんだ。そうでなければ、たった数年でこんなになるはずがない。


 いや、置かれているものは殆ど私の私物だけど。……いいじゃないか、空いてる部屋なんだから。物を置くくらい。いや、その後放置しまくったけど。


 そのせいで、この部屋は見るも無惨なぐちゃぐちゃの世界に。


 リフォームを抜きにしても、これ、何とかしないとなあ。




 片付けの基本は、手前からやっていく事。少しずつ綺麗な領域が広がれば、最終的に部屋は綺麗になる……はず。


 その基本に沿って、分別してゴミの日に捨ててを繰り返し、部屋の奥が見通せるようになった。


 そして、その一番奥に一番片付けが大変なものがある。部屋の奥に鎮座ましましているもの。段ボールに詰められた、薄い本達である。


 あれを片付けるのは難関だ。何故か。分別の為に手に取ったが最後、必ず最後まで読んでしまうという呪いがかかっているからである。


 あらやだ。この部屋、二重の呪いがかかってたのね。そりゃぐちゃぐちゃにもなる訳だ。


 正直、元はあの箱に入っている数倍の冊数、薄い本が私の手元にあった。


 それらを処分する時は断腸の思いだったけれど、それでも何とか所持数を減らしたものだ。あの時は、全てを分別するのに半年はかかったっけ。


 そのくらい、薄い本を分別し、処分するというのは時間がかかるものなのだ。


 でも、今回は時間的余裕がない。何故なら、二日後に業者さんが見積もりにこの部屋を訪れるからだ。


 もし、それまでにこの大量の薄い本を処分していなかったら……考えるだに恐ろしい。私の社会的生命が絶たれてしまうかもしれない。


 気合いだ。気合いを入れていこう。きっと、同人……じゃなかった、薄い本の呪いにも、私は打ち勝って見せる!




 ……完敗だ。負けたよ,これ以上ない程に。


 あれから三時間。開けた箱の数はたったの一箱。残る箱数は……数えたくもない。


 そして、床の上には散らばる薄い本。中には肌色多めのものもある。やめて、若気の至りで買った本なの。いつもこういうのばかり買ってる訳じゃないんだから。


 時刻は既に夕方。そろそろ部屋の電気を付けないと。タイムリミットまで、あと何時間あるんだろう? 二十四時間は残っているはずだけれど。


 いや、頑張れ自分。海外ドラマだって、二十四時間で何とかしているものがあるじゃないか。


 出来る、私にならきっと出来る! 根拠のない自信だけれど、信じる者は救われるんだ。




 翌朝、目が覚めると、私は薄い本の海の中にいた。何だこれ。いつの間に寝ていたんだ私は。


 そして、周囲に散らばる薄い本の数々。折角ここまで片付けたというのに、またぐちゃぐちゃに逆戻りではないか!


 それでも、何となくジャンルごとに仕分けているのが私だな。多分、無意識にやった事だと思うけど。


 残り時間はもう二十四時間あるかないか。明日の午前十時には、業者さんが来る。


 それまでに、このぐちゃぐちゃの環境を何とかせねば!




 甘かった。私に薄い本の選別など、数時間で出来るはずがなかったんだ。開いてしまえば思い出ばかりの薄い本。それらを処分するという事は、私の思い出を処分するという事。


 出来ないよ、そんな事。私の青春なんだもの。


 でも、無情に時間は過ぎて行く。でも、片付けなんてもう進まない。手にしてしまえば、「私を捨てないで」と薄い本達が語りかけてくる。


 うん、捨てないよ。君達は、これまで私と一緒に長い時間を過ごしてきた、いわば相棒のようなものなのだから。


 捨てないならば、どうすればいいのか。我が家には、一階があるじゃないか!


 いそいそと、段ボール箱から出した本を抱えて、一階に下りていく。居間と和室の間には、仕切りのカーテンがあるから、和室に薄い本を積んで、カーテンを閉めてしまえば誰にも気付かれない。


 ふっふっふ。これでいいのだよ、これで。


 でも、今度は和室がぐちゃぐちゃだな。……ま、いっか。

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