表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/17

見えない力に納得しろ

目を開けるとそこは見知らぬ天井だった。


「眩しっ!」


天井が?


いや、視界が光に覆われてて分からない。


光か天井か。


眩しいそれは「起きたっ!」と喋り、俺から離れていった。


しばしばする目を擦り、視界がクリアになる頃には誰もいなかった。


「起きたー!」


遠くの方で先ほどの幼い子の声。


俺はフラフラと立ち上がり、声のする方へと足を進めた。


ベッドに丸い小さなテーブルのみという簡素な部屋を出て、廊下。


声がする。


廊下の突き当たりだ。


頭がボーッとして、体が覚束ないまま、突き当たりの


扉にドアをかけようとした瞬間、扉が開いた。


「グエッ!」


瞬く間に目が冴えた。


押戸の扉に重心を崩し前のめりに倒れた。


「ああと、大丈夫??」


そう聞いたのは先程の少女ではない。

「だ、大丈夫です」


差し伸べられた手を取って、顔が見えた。


黒髪ポニーテールのお姉さんだった。年は少し上くらいだろう。


そして。その隣には小さな少女。


昨日の子だ!


「良かった!無事だった!」


生きていた喜びに咄嗟に抱きしめてしまった。


「く、苦しいよ?」


「ああ!ごめん!」


(ってあれ?天に召されなかった?)


彼女の息苦しそうな声に俺はサッと手をどかす。


「あ、取り乱してすみません!」


「大丈夫。こちらも二人とも無事で嬉しい限りだからね」


女の人はそういって俺に微笑みかけた。


「それで…ここはどこなんでしょうか?」


良い笑顔に水を刺す様だが、本題だ。


「ここは私の家兼職場!というか君、もう動けるくらい元気になったんだね?」


「え?ああ、はい」


あれ?事故でもしたんだっけ?


よく見ると頭から包帯が垂れてるし、足は切り傷だらけ。腕も頭も足も妙に痛い。


「いやぁ、大変だったよー。君の足をくっつけるのはさぁ」


「一体何がっ!?」


「まあ、それはおいておいて」


置いておける話じゃないんだけど!?


とはいえ話す気は微塵もなさそうなので、また今度聞くことにしよう。


「君がここにいるのは私とヒカリちゃんが選んだからだ!」


「ヒカリ…ちゃん…?」


「おっと、自己紹介がまだだったね。私は


平城 一(ひらしろ はじめ)。一でいいよ。それで……彼女がヒカリちゃん。一応、私が親にあたるのかな?」


自分の手に胸を置いて自己紹介。それから、少女の方を向いてそう聞くが、ヒカリちゃんと呼ばれたその子はブンブンと首を振った。


「私の親はいないよ」


(とんでもない爆弾発言きた)


「私はみんなから生まれたの。…ありがとう」


(かと思ったら天使きた)


彼女の背中に二つの羽が見える…。まじもんだ。


「…で、俺はその、なんで一さんの仕事兼家にいるんですかね?」


「そりゃあもう私が拉致ったからに決まってる!」


「決まってるの!?」


「まあ、てのは冗談で。私とヒカリちゃんが君を適任者として選んだからだよ!」


「適任者…ですか?俺は誰からも馬鹿扱いされるただのポンコツですよ?」


「それがいいんだよ!」


否定はしてくれないんだ。


一さんはビシッと人差し指を俺に向けた。


「君の素直さ、馬鹿正直さ。素直な気持ちってのは、教科書に捉われない原石なんだよ。だから君には見えない存在を救ってもらいます!」


「……だからの理由がわからないんですけど?」


「まあつまり、()()()()()()を救う為には直感を信じる素直な気持ち、価値観に囚われない強い意志と思考と行動力がいるってこと。正に君は適任だね?」


上目遣いウィンクじゃないのよ。


「いや、そこじゃない。見えない何かを救うって何すか?変な宗教?」


「一つの思想という観点から見ればあながち間違いではないかもね。でも信者はいない。作る気もない。これは私の価値観だから。…ちょっと遠回しすぎて面倒くさいかな?私。結論から言うと思創師(しそうし)を目指して欲しいんだ!」


「…聞いたことのない職業ですね」


「まあ、世間に出回る訳はないよね。といっても全員の思想はバラバラだから結果、全員違う職業と言っても過言じゃないけど」


「つまり哲学的な?」


「まあ、方向性はそんな感じ。ただ共通の特徴もあるんだよ」


「というと?」


「思創師は、自らの思いを形にする職業。言い換えれば、夢を必ず叶えるための職業」


「なんか、無職みたいですね」


「確かに聞こえはそうかもね」


一さんの眼差しは至って真剣だ。


冗談を挟むのは違うかもしれない。


「私達は目に見えない形ないものを形に変える力を持っている」


「?」


一さんは首を傾げる俺に「よく分からないよね」と、少し悩む。


「えっとー。それこそ.…思想を…形に。思い通りに?」


「そう!そんな感じ!」


なるほど?


「私の理想はね?形のないモノに苦痛ではなく幸福を与える。もしくはフラットに生きてもらう事なの。これは結局、自分たちの()()()かもね」


「形ないって霊のことですか?」


「もっと、小さいモノだよ。君が言う様それもまた間違ってないけどね」


的を得ないというか、なんと言うか。


難しい話にポリポリと頭を掻いてしまう。


「あの…ごめんなさい。そう言う話はちょっと…。高校にも行かなきゃいけないし、家族もなんて言うかわからないので…」


「学校は退学。君の家族はもういないよ…」


「本当に俺に何があったんですか!?」


「家もない!」


「家がない!?」


「選択肢はここ以外になし!」


「いや、拷問?ちょっと待って。風当たってきていいですか?」


「良いよ。気をつけてね」


「玄関は…」


「廊下を真っ直ぐいったところだよ」


俺は一さんの指示通りなっがーい廊下を歩いて玄関まで来た。


ちゃんと俺の靴が並べて置いてあったが、靴はぺちゃんこで、俺からしたらある意味おニューだった。


玄関扉を出て考える。


「意味わかんねぇ」


全てが理解できそうで出来ない。


見えないものを救うってどうやって、どこで、何をするんだ。


主語が全て抜けていた気がする。


確かに俺は高校を出てから行く大学も就職先もほぼ見つからないだろう。誘ってくれるのはありがたいし、宗教じみているとは言え、誰かが幸せになるのは俺も嬉しいし、願ったり叶ったりだ。


いやぁ、だとしても、なぁ…。


こんなに悩んでたら空がヘドロの様に濁ってて、変な魔法陣みたいなものも浮かぶよな。


ふと空を見上げてそう思った。


「魔法陣ッ!ヘドロ色!?」

あれ!?


ハッとした。


上を見れば俺の知らない空。じゃあ下は?


「おや、こんにちは」


下には普通の地面と普通じゃない地面とダンゴムシがいた。


俺の付いている地面はコンクリートだが、要所要所から手が地面から生えてるわ、魚が泳いでるわでもう意味が分からない。


ダンゴムシはダンゴムシだった。


「何この世界」


見えているものが全てだろう。


とりあえず気にせず散歩しy「おぇぇぇええええ」


空気を吸って吐いて吐いた。


吐瀉物が出た。


苦しい。首を絞められている感じだ。息も上手く吸えない。


吐いて幾分かマシにはなったが、次は下痢の様な痛みが襲い、踏んだり蹴ったりだ。


それでも俺は目的地なく歩く。


左手には〜公園〜公園〜。


歩いて30分くらい。もう帰り道は分からない。


21時30分。


公園の柱時計を見て今が夜だと言うことに気がついた。二度見もした。間違いはない。


それを見てどっと疲れが来てしまった。


脳も体もバグっている。


俺は足を止めてしまった。そして、公園の中に入って、中央に聳えるお山の滑り台のてっぺんで休憩する。


頂上を取ったのは公園の敷地内は地面に蠢く手で満員だからだ。


「うぉ」


何度か蠢く手が登山に成功しかけたが、足裏でゲシゲシ蹴ったら下に落ちていった。


「…ここ、私の家よ」


そんな仕打ちが満更でもない蠢く手と遊んでいるところに恐らく女性と分類される人間が簡単に頂上を取り、俺の背後から声をかけた。


「家?公園ですけど…」


「今日から私の家なの!」


「あ、はい。すみません」


「はっ。いや、こちらこそごめんなさい」


引き気味に俺がそう言うと我に返ったの様に綺麗に土下座をした。


「…何があったんです?」


見るからに切羽詰まってそうな彼女に俺はそう聞いた。


「…家出、ですよ…」


彼女は俯いて答える。


深刻なのは彼女の表情だけではない様だ。


首筋や手首には痣がある。


相当痛い思いをしてきたのだろう。


「ずいぶん痛い思いを…」


そう言うと彼女はさっと痣を隠す。


「私は出来損ないですから…貴方はなんでここに…」


こっちをチラッと見ながらそう聞く彼女。どことなく、訝しげだ。


「俺も出来損ないのお馬鹿さんだから何も分からないんだ」


「分からない?」


「ああ。分からない。家族は一人もいない」


「いないっ!?」


「学校も退学になったらしい」


「退学になったらしい!?」


「家も…ない…らしい…。俺が足が一回切断されたらしいし。マジもう袋小路」


「なんで全部人から聞いた話みたいになってるんですか?」


「そういやそうだ」


「今っ!?」


「高校の…、同級生と肝試しすることになって。その、足が無くなってた」


「話が飛躍しすぎなんですけど。いや、でも、それが本当なら凄まじいね。私。私の辛さなんて分かるわけないよね。なんて思ってたけど、私の方が貴方と辛さ意味わからないわ」


分かんないじゃなくて、意味わからないって言われた。でもそうだよな。


「意味わからないよな。俺も分からないもん。辛いのかも分からないもん」


「なーんか、ちっぽけに感じるな」


「人が辛いと思う部分はそれぞれだし、そこに優劣はない。それが辛い事には変わりないだろ?」


「ううん。家があって、寝る場所があって、ご飯があって、五体満足なんだよ、私。体罰は凄い嫌だけど、今まで受け入れてた自分も自分なんだなって。仕方ない事じゃなかったなって。貴方が今、凄い目に遭ってるのに訳わからんってあっけらかんとして、笑顔を見せる姿がとってもちっぽけに感じさせてくれたんだよなぁ。よし!家に帰って話し合いをしてみようかな。それでもダメなら警察か何かに頼る!逃げ道のある便利な世の中になったよねぇ」


何故か生きているだけで彼女に力を与えてしまった様だ。


「そうだなぁ」


いつのまにか敬語もなくなって距離感が近くなっている。


とそんな話の中。


「あっ!こんなところにいやがって!」


と、ブンブン腕を振るって殴る気満々のおっさんが殺気だった目で彼女をみる。


(全然ちっぽけじゃないんだが!?)


刺青に筋肉隆々。完全に向こう側の人じゃないですか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ