変人は個人を良く扱っている
「何やってるんですか〜?」
俺が堤防から転げ落ちて、パンパンと土を払った後に彼女達の輪の中に入ったのは丁度その時だった。
「あ?」
そう睨むのはポケットに手を突っ込んだ程度の悪そうなチャラ男の二人。
「なんだぁテメェ?」
「あっ!こいつ、なんかの宗教団体に入ってる頭のおかしいやつじゃん!あー。やっぱ、頭のおかしいやつ同士惹かれ合うのかなぁ?」
「まー、確かに。お前らには見えてねぇもんな。幸せな事だよ、ほんと」
「それでなに?助けにでも来たの?」
「まあ、そんなところだな。嫌がっている人見るの不快だしな」
「はっ。かっこいいじゃん。でもこの人数相手に何ができるの?」
鼻で笑うギャル友。
「別に倒す気ないけど。誰の体でも傷つけるの嫌だし」
「じゃあ、勝手にボコボコにされてろ!」
そして、男のパンチが飛んでくる。
喧嘩なんて一度もした事はない。したくもない。痛いし、誰も幸せにならないから。
俺はこの時感覚で理解していることがあった。
なんか俺の体強くなってね?
思い通りに動くというか…動いてくれると言うか…。
(目もよくなってる?)
いや、これに関しては、あの子のお父さんから始まって、あの化け物、そして土地神のえぐいスピードを経験して来たから、早さに慣れたのだろう。
こいつのスピードといえばベビーカーを引くおばあちゃんと同じぐらいの速度だな。
余裕で交わせる。いや、交わす必要もないか。
俺は今ここ、男の目の前じゃなくて、彼女の前に立ってるからな。
この作業も少しずつ馴染んできている。
自分が原点と言う感覚。どこに存在してもおかしくないと言う価値観。
俺は土地神の様、瞬間移動を決めることが容易になって来た。
「え?」
俺以外のその場にいる全員が目を疑った。
そこに居るはずの男がそこには居ないんだから。
彼らの価値観から逸脱した俺はさぞ可笑しく見えるだろう。
それが視野を狭めて、驚き恐怖させる。
俺からしたら彼らの凝り固まった価値観の方
が余程滑稽だ。
「さて、ちょっとどいてね?」
俺は取り敢えず胸ぐらを掴む手を引き剥がし、肩を抑えて彼女と友人の距離を少し開ける。
そして、俺は彼女に背中を向けた。
「?」
「おんぶです」
「…え?」
「逃げるよ。乗って…」
「…え、え?」
「このまま痛い目に会いたいんなら置いてくけど?」
俺がそう言うと急いで乗って来た。
窮地は人を素直にするらしい。
痛い目見るのは嫌だもんな。
「よし、じゃあ、逃げるか」
「逃すわけないじゃん!?」
彼女をおぶって立ち上がると人間包囲網がそこには出来ていた。
彼女を連れて彼女まで瞬間移動は出来ない。
やったわ。
こう考えた時点でダメだ。
この価値観に染まっている。出来ないと言う気持ちが、全ての理不尽に鍵をかけてしまう。
原点である彼女も同じ原点だ。
けれど彼女自身は原点ではなく人だと考えている。
俺が瞬間移動した時、彼女を一緒に瞬間移動出来る確信がなかったのだ。
さて、じゃあ正々堂々逃げるとするか。
自信はある。いや、出来る。
体が自由に動いてくれるから。
「ありがとう」
「感謝?つくづくきっもいなぁ!!」




