土地が自分のものだと思うなよ
そうだよ。先日やったみたいに俺も場所を移動すれば良いんだ。
えっとそうだな…。
あの土地、あの場所に戻りたいです!原点様!
俺は目を瞑り、掌を合わせ、祈った。
グッと力を入れ、お願い!と。
「何やってんのそれ」
あれ?
チラッと片目で目を開けると、目の前にはチベットスナギツネの様な目をした土地神が立っていた。
「…あ!…え?」
出来ん。
あれこないだと一緒じゃないのか?
「どうしても行きたいのか!」
「行きたいです!」
「じゃあ私を倒していけ!」
「無理です!」
「何でだっ!」
「優しい奴だからです!」
「え…。嬉し…」
「隙ありっ!」
「ないっ!」
ッチ。
頭をかいて喜ぶ隙のあるうちに全力で逃げようとしたが、やはり回り込まれてしまった。
もう一度願う。
「お願いっ!」
「願うなぁっ!自分でやれぇ!掴み取れぇ!都合よく神を扱うなぁッ!」
ガチ怒りきたこれ。
また瞬間移動…。
瞬間移動…?
土地神はどうやって…。
「なぁ」
「なんださっきから」
「どうやって瞬間移動してんの?」
「あん?私が出来るのは同然だろ?原点そのものなんだから」
聞いてみた。そしたら普通に理屈はない。
けれどピンと来た。
出来るのが当然。原点だから。
そうだよ。当然なんだよ。
俺も原点で出来ているから。表現しているのは原点なんだから。
「あっ。なるほど」
「お前これで理解したのか凄いな」
お願いじゃない。やってもらうんだけど、願うんじゃない。
実行だ。
自分が思いを表現する。
表現は原点がする。
当然出来る。何物にも染まる原点だから。
ほらここが今。ギャルのいた土地だ。
「ほら出来…た、本当にできた!?」
純粋に素直に出来る事をやっただけ。
原点が俺の思いを表現して、形をギャルのいた土地に表現しただだけだ。
「むっ!やるなお前!」
土地神もまたここにいる。亡霊達もここにいる。
「ウェーイ!」
凄い亡霊達嬉しすぎてハイタッチして踊って土地神煽ってるわ。
俺をど上げしよう頑張ったが重すぎて上がらなかった様だ。
何だこいつら、かわいいな。
そして、俺は土に鉄の棒を刺した。
猿は亡霊に邪魔されて、鉄の棒を刺す事を邪魔できなかった様だ。
「やめろー!!」
亡霊達に情けなく悪戯される猿の手だけがこっちに向かっていた。
「おっ!揃った」
刹那棒からもくもくと煙の様に光が立ち上る。
そこに亡霊達も集まってくる。
「あ゛ー。沁゛み゛る゛ぅ〜〜」
風呂入るおっさんか?
亡霊は昇天でもするかの様に腰をそって天を見る。
亡霊達が天に昇ることはない様だ。
ただ、その光に亡霊達の所々、または全身の真っ黒に汚れた部分が吸収され虚空に消えていく。
それだけではない。
淀んでいた空気は見る見るうちに澄み渡り、久しぶりに青空を確認出来た。
空気中の何かが浄化し終わると、鉄の棒もサラサラと形を崩し空気と化した。
「いや、まぁ。確かに…。我は彼ら原点が土地が幸福になってくれることは非常に嬉しい限りであるのだ。お前らに感謝してるところはある」
土地神も落ち着いた様で、一息つきながら冷静に俺の目を見てそう言った。
土地神と目を合わせたが、彼の目からはもう血は流れていなかった。
「だが、ここからまた人間が増え、更に苦しむ事になるのも明白なのだ」
「……石壊しちゃえば?」
「はっ!」
俺のなんとないアイデアに猿は目を大きく開き、そうか!と、手を叩いた。
「天才か!?」
「いや、凡人以下ですが」
しかも脳筋アイディアだし。
「人間が石に執着するならば、石を壊せばもうパワーがないと思い込むはずだ。人間は直感という目に見えない絶対的なものを捨てて、物と言う確証のない何かを祀りあげる愚者だからな!」
それでもまだ鬱憤が溜まっている様で、怒れば怒るほど目から血が滲む。
「はーい!今日の夜中に地震起こしまーす!」
すんごい宣言出た。
「人間が復旧も近づけもしないほどに地面割ってやろう。あ、お主は遊びに来ても良いぞ」
「……か、考えとくわ」
そして俺の前からウッキウキの猿基、土地神が去っていった。
肩が軽くなり息が吸える様になった。
ブーブー。
背伸びをする所にメールが届く。
一さんからだ。
『先に帰るね!土地神様にもよろしく伝えといて〜!今日の実践結果と、私が行った事はまた明日勉強会で説明するね!」
明日もあるのかよ!あの絶望勉強会。
一気に体が重くなった気がしたが。
「帰ろう…」
歩を進めるスピードは速い。
帰り道の道中。堤防の上を歩いてふと気になって下を覗く。
「あれ…?」
見覚えのあるサイドテールだ。
いじめられている。
俺は迷いなくギャルのところへ足を進めた。




