髪を切る
鏡に映るマーサは困惑していた。
「リュゼリア様、本当によろしいのですか?」
「いいのよ、ばっさりやっちゃって!」
——女性の髪の長さ、それは貴族のステータスを示すもので必ず長い髪でなければ……という時代はこの国では過ぎた。髪が短い人もいれば、長い人もいる。
それでも、私が今日までこの長い髪を維持し続けていたのは、エドワード陛下のためだ。長い髪というのは、それだけ維持が大変で、だからこそ昔は一種のステータスだった。
時代は変わったとはいえ、まだ長い髪に対する特権階級の印象が消えたわけじゃない。
だからこそエドワード陛下が見くびられないように長く伸ばしていたし、幼いエドワード陛下にも言われたのだ。
「リュゼリア、君の長い銀髪はまるで冬の月の光を集めたようで、とっても綺麗だ」
そして、エドワード陛下により綺麗だと思ってもらえるように、髪のケアを念入りにしていた。
でも、そんな髪ともおさらばね!
「……本当によろしいのですね?」
再度確認したマーサに大きく頷く。
「ええもちろん! お願いするわ」
髪を梳かし、マーサが丁寧に切っていくのを興味深く眺める。
こうしてみると、私って本当に髪が長かったのね。
「この長さでいかがでしょうか?」
「うーん、そうねぇ……」
マーサはまず、胸の高さまで切り揃えて私を鏡越しに見つめた。
「もっとよ!」
「もっとですか!?」
「ええ!」
せっかく切るんだし、もっと短くしたいわ!
「かしこまりました」
ハサミを置き、再度マーサが私を見つめる。
「これでいかがでしょうか?」
「そうね、丁度いいわ。ありがとう、マーサ」
胸と肩の間くらいの長さで揃えてもらった。
これくらいの長さなら、様々なアレンジを楽しむことができそうだし、それに……。
「かつらも被りやすそうね」
「かつらにございますか!?」
あら、やだ。口が滑っちゃったわ。
仕方ないので、マーサに白状する。
「ええ。髪をまとめてネットに入れて、かつらをかぶったら、城下にも行きやすいかなと思ったのよ」
その他にも、心が軽くなったし、体も軽くしたかった。というのもある。
「城下、ですか……?」
「ほら、結婚してから公務以外でこの城の外に出たことがないじゃない? だから、出てみたいと思ったのよ」
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