保証します
――数日後。
「……陛下。この度はお時間をいただきまして、ありがとうございます」
王城の一室で、アキルとともに礼をする。
……そう、アキルも薬がちゃんと効くか見たい、という理由で……一緒に来ていた。
さすがに、大国の王太子……と言うわけにはいかないので、私の従者として後ろに控えている。
数日ぶりに見るエドワード陛下は、憂い顔をしていた。
「いや……それで、話とは?」
「……はい。本題に入る前に、陛下にお尋ねしたいことが、一件ございます」
「わかった」
エドワード陛下が頷いたのを確認し、まっすぐに見つめる。
「……陛下、恐れながら、下半身系に病を患われていませんか?」
「っ!」
なぜ……と、震える唇で、そういったエドワード陛下は、ロイズを見た。
ロイズ、やっぱり何か知っていたのね。
私がロイズに聞いた時も、なにも教えてくれなかったのに。
「私は……」
エドワード陛下は何かを言いかけ、やめた。そして、小さく頷く。
「……ああ。そうだ」
その答えに息を吐く。
「やはり、そうだったのですね」
「君は、どこでそれを?」
私は質問に答えず、鞄の中から二つのガラスの小瓶を取り出した。
「……これらは?」
一つの小瓶は、空だ。そしてもう一つの小瓶は、青い液体で満たされている。
「薬瓶です。ひとつは、私が以前飲んだもの。そして、もう一つは、陛下に飲んでいただこうと思っているものです」
……薬瓶?
「まさか、リュゼリア――君も、どこか悪いのか!?」
前のめりになるエドワード陛下には、焦りが見えた。
そんなエドワード陛下を安心させるために、首を振る。
「私の場合は、病のためではありません」
「……そうか」
ほっと、息を吐きだしたエドワード陛下に胸がつまる。
でも……続けなきゃ。
「……陛下。私が、以前、あなたに恋をした私は死んだ、と言ったことを憶えていますか?」
苦しくて、苦しくて、死にたかった。だから、死ぬことにしたのだと伝えたときのことだ。
「……あぁ」
頷いたのを確認して続けた。
「私は、この小瓶に入っていた薬を飲み干し――あなたへの恋心を失いました」
空の小瓶を振って見せる。以前、黄金色の液体で満たされていたそれは、今は空気しか入っていない。
「それなら、まさか……この薬を飲んで、私に君への恋心をなくせと? いや、そもそも恋心を消す薬など、聞いたことが……」
信じられないものを見る目で、私を見つめるエドワード陛下を強く、見つめ返す。
「ですがこの薬を飲んで、私は確かにあなたへの恋心が消えました。その変化は、陛下、あなたが一番ご存じのはず」
「そんなまるで、魔法のような、薬……」
魔法なんて……、と呆然と呟き、やがて、はっと思い出したように、エドワード陛下は私に八尋ねた。
「魔法使いか、錬金術師の薬か?」
「はい。この薬を作ったのは、錬金術師で、こちらの彼……アキルが作ったものです」
アキルは、エドワード陛下に向かって、恭しく礼をした。
「陛下には、これを飲んでいただきたく」
「……その薬の効果は?」
「魔法を解く薬です」
悠然とそういったアキルに、エドワード陛下が顔をしかめる。
「まさか、私が何者かに魔法をかけられていると?」
……まぁ、そうよね。簡単には頷かないか。
「……はい。その通りです、陛下」
けれど、アキルも引かなかった。深く頷き、小瓶を指し示す。
「こちらを飲めばすぐに効果が出るので、お判りいただけるかと」
「……っ陛下、ここまでにしましょう」
今まで黙っていたロイズは、アキルを指さし、語気を強めた。
「ロイグ嬢はこの錬金術師だとかいう、胡散臭い男に騙されているのです!!」
そう言って、エドワード陛下を連れて行こうとする。
「さぁ、陛下! 次の予定がつまっております。行きましょう」
「まぁ、待て」
そんなロイズを手で制すと、エドワード陛下は、アキルを見つめた。
「……この薬が、魔法を解く薬だという保証はどこにある? 毒かもしれぬものを簡単に飲めると思うか?」
「それは――」
「私が保証いたします。もし異なる場合は、私の首を刎ねていただいて、構いません」
「!?」
アキルの言葉に被さるようにして言う。
「リュゼリア!?」
案の定、エドワード陛下もアキルも焦った顔で私を見つめているけれど、知らないわ。
「飲むか、飲まれないかは、陛下にしか決められませんが……」
私は、目をそらさず、エドワード陛下を見つめる。
ここで、引いたらエドワード陛下は、絶対に飲んでくれない。そういう性格だと知っているもの。
「……まったく、君は」
あきれたようにため息をついたエドワード陛下は、一度顔を伏せ、それから、まっすぐに私を見た。
「――飲もう」
「陛下!? これが毒ではないという保証は……! せめて、私に毒見を」
焦るロイズ殿を、無視してエドワード陛下は、小瓶のふたを開けると、中身を一気に飲み干した。
「……ふ」
小瓶を、机に置く。
「何をしているんですか、陛下!!」
ロイズ殿は、顔を真っ赤にして、私をにらんだ。
「ロイグ嬢、いくら元王妃といえど――」
……そのときだった。
「!?」
エドワード陛下から黒い靄が出てきて、それらがとある方向に向かって進んでいく。
「……今のは」
「解かれた魔法が戻っていったのでしょう」
冷静にそう分析したアキルを前に、エドワード陛下は、呆然としていた。
「……そんな」
自分に魔法がかかっていたなんて、ショックだろう。
……当事者じゃない、私も胸が痛いもの。
「魔法が本当に解けたか、医師を呼んで確認いたしますか?」
「……いや」
アキルの言葉に、エドワード陛下が小さく首を振る。
「なんとなく、感覚でわかる。リュゼ――」
エドワード陛下が、何かを言いかけたとき、騒がしい音が、応接室の外から聞こえてきた。
エドワード陛下は、立ち上がり、扉のほうへ視線を向ける。
「エド。エド、いるんでしょ!? どうしたの、何かあった!?」
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新作「運命は、手に入れられなかったけれど」連載中です。そちらも合わせてよろしくお願いいたします。
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