わたしだけを(アイリ視点)
今日も治療のためにわたしの部屋を訪れたエド。
「……エド? エドったら」
エドは、ラグルナ湖から帰ってきた後もずっとぼんやりしていた。
原因は、わかってる。
元王妃様――リュゼリア様とその隣にいたアキルとかいう男性のせいだろう。
かわいそうなエド。
リュゼリア様をあんなに想っているのに、当のリュゼリア様は、もう別の男の人といたんだもんね。
ショックを受けるのも無理もない。
やっぱり、早くエドの目を覚ましてあげなきゃ!
エドの運命の相手はわたしなんだって、気づかせてあげるんだ。
それで、王様なんて責任ばっかりで辛い仕事なんてやめて、わたしと男爵領でゆっくり暮らすの。きっと、素敵で幸せな生活がエドを待ってるわ。
そう気持ちを固めながら、エドの前のテーブルに、カップを置く。
「……エド、ハーブティーを淹れたよ。ほら、飲んで?」
「アイリ……、治療を早く」
「前にも言ったけど、治療をするには、心がリラックスしてなきゃ。……治らないと、リュゼリア様を迎えに行けないんでしょ?」
エドの病気が今治ることは絶対にないんだけどね!
ちょっと意地悪なことを、心の中で付け足して、微笑む。
だって、エドが悪いんだもん。
運命の相手は、こんなに目の前にいるのに気づかないんだから。
「あぁ、そうだな」
リュゼリア様の名前を出したら、すんなりハーブティーを飲んだエドに苛立ちと安堵を覚えながら、私もエドの隣に座る。
「ねぇ、エド……」
「……どうした?」
「エドは、運命って信じる……?」
生まれた時から、ううん、生まれる前から決まってる定め。わたしは、信じてる。エドとわたしは一緒になるべき二人だって。
「ああ、信じてる」
小さく頷いたエドは、遠い目をしていた。ここにはいない誰かを想う瞳だ。
そんな行動一つに傷つく心を隠して、微笑む。
「そっか。わたしと一緒だね。じゃあ、エドは、神様って信じてる?」
伝承では、この国は恋と花が大好きな女神様が創ったことになっている。
「いるはずがない。いたとしたら、ダルク兄上は……」
エドはいまだに、亡くなったお兄さんの幻影に囚われている。
でも、その原因もリュゼリア様だ。
完璧なお兄さんが彼女の婚約者になるはずだったから。
エドの考えは結局のところ、すべてリュゼリア様に繋がっている。
でも、それってどうなの?
好きだったらそこまで尽くさなきゃいけないの?
「エド、お兄さんのことは本当に残念だったけれど……」
わたしにとってもとても残念だ。
だって、お兄さんがなくならなかったら、エドとずっと一緒にいられたわけだし。
「でも、今、生きてるのはエドだよ? エドはエドの人生を生きなきゃ!」
「……そう、だな」
ハーブティーのおかげか、いつもの言葉にエドは珍しく頷いてくれた。
「ねぇ、エド……」
「どうした?」
わたし、こんなにエドが好きなんだよ? ……って伝えたいけど、まだだめだ。
「エドは、わたしのことどう想ってる?」
「それは……妹みたいな、大切な幼馴染だと思っている」
妹。……家族っていう恋愛から、程遠い存在。
なんで?
どうして、そんなにリュゼリア様がいいの?
たまたま高位貴族で、幸運にもエドの婚約者に選ばれただけでしょ?
口元まで出かかった言葉を、呑み込む。
「……そっか、うん、嬉しいよ。ありがとう」
ウソを紡ぐわたしの顔はちゃんと笑えているだろうか。
「……アイリ? どうした?」
「う、ううん! なんでもないよ!! それより、今日の治療しよっか」
はい、と手を差し出す。
「……ああ」
手を握られて、熱と共に、わたしの力も巡ってくる。エドの体内を流れるわたしの力は、健在だ。
……早く『彼』にエドを王の座からしりぞけてもらわないと。そして、わたしだけを見てもらえるようにするんだ。
そうすれば、きっと。
きっと、エドはわたしだけを愛してくれるはずだから。
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