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私は私

「どういうことですか……?」

 マーサが不安そうな瞳で私を見つめる。


 私の中に、ずっとあった熱が、消えた。


 熱がまだあった頃の記憶はある。

 でも、それはただの思い出となっていて、実感はないのだ。


「今日から生まれ変わったの。叶わない人を追いかけるのは、もうやめるわ」


 マーサにはこれで十分伝わるはずだ。

 マーサは目を見開き、口をあんぐりと開けた。


「リュゼリア様、本当に……?」

「ええ、本当」


 大きく頷いて見せる。


 アイリのことで悩んで頭痛がすることもないし、たっぷり眠ったから、思考が鈍ることもない。


 とっても自由な——エドワード陛下に出会う前の私に戻れた。


「……」

「どうしたのマーサ?」


 マーサは一度目を伏せたあと、私の手を握った。

「リュゼリア様、わたしは今まで何もできませんでした。傷つけられるあなたを見つめることしかできなかった」


 マーサが言っているのは、白い結婚、そしてアイリのことだろう。


「でも……」

 それは仕方のないことだわ。それに、マーサはいつも私のそばにいてくれた。そのことにどれだけ救われたかわからない。


 続けようとした言葉は、マーサによって遮られる。

 

「いいえ。そうした私の態度も昨日までのリュゼリア様を殺したのだとしたら……」

「!」


 はっとする。

 今日の私は開放感でいっぱいだったけれど。


 元々、あの薬は毒薬だと思って飲んだ。実際には違ったみたいだけど、昨夜の私は確かに死を選んだのだ。


 ——そのことによって、傷つく人がいることも忘れて。


 もちろん、マーサは毒薬だと思って飲んだことは知らないのだろうけれど。


「いいえ、違うのよマーサ。悪いのは、あなたじゃないわ」


 私の浅はかさは、私自身が知っていればいいから、マーサには言わない。


「私を愛してくれないのも、愛人めいた人をそばに置き続けるのもあなたじゃないわ。……あなたがいてくれて本当に感謝してるの」

「リュゼリア様……」


 マーサが握ってくれた手を握り返す。


「それに、今の私はとっても自由になれたのよ。だから、そんなに悲しそうな顔をしないで」


 それでもなお納得して居なさそうなマーサに、付け加える。

「それなら、今日からまた以前以上に私を助けて欲しいわ」

「……わかりました。ありがとうございます」


 ようやく、マーサに笑顔が戻ったことにほっとする。


 マーサに手伝ってもらって、朝の支度を整える間、考えていた。


 実際、昨日までの私は死んだ。愛されない、夫に嫌われ続ける王妃はもう、死んだのだ。

 

 だから今日からの私を、私自身が一番愛しましょう。


 だって、返ってこない愛を期待するより、ずっといい。

 

 ——そう、溺愛してくれる人を探すのではなく、自分が自分を溺愛するのよ。


 そう決めた途端に、さっきよりもより、心が軽くなるのを感じた。

 私は、私。

 そのことを忘れずに、今日から生きていこう。

いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

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