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恋心に苦しむ王妃は、異国の薬師王太子に求愛される【WEB版】  作者: 夕立悠理
二章

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もうひとつの秘密

 ――馬車に揺られながら、私は今までのことを思い返していた。

 優しく私の手を握ってくれた、幼い頃のエドワード陛下。


「私たちは、夫婦になるのだから」が口癖で、いつだって、優しかった。

 青年になったエドワード陛下。

 目も合わなくなって、笑顔を見せてくれないどころか、名前も呼んでくれなくなった。

 結婚してからのエドワード陛下。

 アイリの部屋に足繁く通い、アイリを虐げたと私を糾弾した。

 

 そして、私の目の前に現れたアキル。

 最近話題の薬師だという彼は、私に『最も必要としている薬』をくれた。

 薬を飲んだ結果、私は恋心を失い、自由を得られた。自由を満喫していると、エドワード陛下の態度が変わった。……私と一緒に食事を摂ったり、気にかけたりするエドワード陛下に戸惑ったのを憶えている。


 その後、薬の効果が一年後に切れてしまうと知って、離婚したいと思った。お父様にお願いして、議会で承認を得てもらい、無事に離婚できた。

 それから――……アキルに妻になってほしいと言われたり、エドワード陛下とアイリと湖でばったり会ったりしたけれど。

 もし、アキルの言っていることが本当なら、エドワード陛下のこと、赦したいと思う。

 でも……。


「……あ」

 馬車が止まった。

 どうやら目的地に着いたみたいね。

 アキルの居場所……は、大国の王族らしからぬ、簡素な一軒家だった。

 馬車から降りると、アキルが出てきた。


「ロイグ嬢、答えは決まりましたか?」

「……はい」

 頷きながら、アキルを見つめる。

 ……相変わらず、きれいな瞳ね。

 凪いだ海のような青い瞳は、どこまでも、澄んでいた。

「では、ロイグ嬢、どうぞ」

 差し出された手を取る。

 ――この先に待っているのが、どんな秘密であったとしても。

 私は、知らなければならないと思うから。




 アキルの家の中は思った以上に広い。

 ごぼごぼと音を立てながら加熱されている、何らかの液体や、私では読めない文字の羅列がある板、複雑な模様が描かれた紙……どれも興味をひかれるけれど、私が今回アキルの家を訪ねたのは、そのためじゃないわ。

 

 雑念を追い払うため、一度目をぎゅっと閉じて、開く。

 すると、少しは注意が逸れなくなった。

「こちらへどうぞ」

 アキルの言葉に従い、ついていくと応接室に通された。

「ソファに座ってください。紅茶を淹れますね」

 この家にアキル以外の人の影を感じない。まさか、大国の王太子ともあろう人が、一人で住んでいるのかしら。


 それになのに、紅茶を淹れてくれるっていうことは、手ずからするってこと……?

 今の私は、ただの公爵令嬢で、王妃じゃないし、さすがにそれは申し訳ないわ。

 様々な考えが頭の中に浮かんでは消えていく。

 すると、アキルがトレーに陶磁器のポットとカップを持ってやってきた。

 

 そして本当に、自らの手で紅茶を淹れ……って、え、本当!?

「……ふふ。そんなに熱く見つめられると、照れますね」

 苦笑されて、自分が彼を凝視していたことに気づく。

「不躾でしたね。申し訳ございません」

「いいえ。あなたに見られて悪い気はしませんから」

 スマートな仕草で紅茶を私の前に置くと、アキルは向かい側のソファに座った。

「冷めないうちにどうぞ」

ありがたく紅茶が入ったカップを持つ。

 品の良い香りが鼻腔をくすぐった。それに、紅茶の色もとてもとても綺麗ね。


「!」

 すっごく美味しい!

 淹れる技術も高いのはもちろんのこと、この茶葉、とても上手に保管されていたのね!

 感動しつつ、カップを置く。


「……ふふ」

「アキル殿?」

 どうしたのかしら。

「あなたは本当に、少女のようで愛らしいですね。紅茶を気に入っていただけたようで何よりです」

「……!!」

 は、恥ずかしい。恥ずかしすぎる……!

 紅茶が美味しいって、顔に出すぎていたのよね。

 これでも、一応元王妃として、淑女教育を受けているのに。

 でも、もう、自分を隠すことはやめにしたから、それで正解?

 でも、他国の王族の前で、さすがにはしたなかったわよね。

「そんなあなたも好ましく思いますが……ロイグ嬢」 

アキルもカップを置いた。思わず背筋を正す。

 そうだ。今日は別に美味しい紅茶を飲みに来たわけじゃない。

「はい」


「答えをお教えいただいても?」

「……はい」

 一晩考えた私の答え。

「赦したい、とは思います」

「……そうですか」

 アキルは、ゆっくりと微笑んだ。その笑みを見つめながら続ける。


「赦せるかはわかりませんが。――それでも私は、知らなければならないと思います」

「知りたいとそう思われるのですね」

 アキルは、一度目を閉じると、ふ、と息を吐きだした。

 そして、ゆっくり目を開ける。


「……ロイグ嬢」

「はい」

「以前、私の目についてお話ししましたね」

 アキルの目。人の顔が認識できない、特別な瞳。

「……はい」

「実は、この目にはもう一つ、秘密があるのです」

 もう一つ……。今回のことに関係するとすれば、それは……。


「普通の人は持ちえない、何か別の力――魔法、と呼ばれるような類のものの力が見えるのです」


いつもお読みくださりありがとうございます。

本作の商業化が決定いたしました!

お読みくださる読者様方のおかげです。

誠にありがとうございます!!!


詳しくは、ご報告できる時期になりましたら、お伝えさせていただきます。

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お読みいただき有難うございます!
運命は、手に入れられなかったけれど
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― 新着の感想 ―
[一言] 書籍化おめでとうございます!
[気になる点] こ、これは…。 いつもはこんな事思わないのですが、こちらの作品の元夫は一途なだけに酌量の余地があるというか…。 正直陛下も気の毒に感じました。 アイリさんに持っていかれるのも何かモヤっ…
[気になる点] なんで死を考えるぐらい追い詰められた側が、赦す赦さないで場合によっては悪者にされる状況になってんの? 王城という国の中枢に、王族でもないうえに犯罪行為するゴミ女をたいして調べもせずに…
2023/10/09 15:45 退会済み
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