眠れなかった
「……眠れなかった」
アキルの舟の上での衝撃的な発言の後。
どうやって、離れに帰ったか記憶は――ばっちりあるものの。
『何者かによって操られていたのだとしたら。エドワード陛下を赦しますか?』
ずっと同じ言葉が頭の中をぐるぐると回っていて、一睡もできなかった。
はぁ、とため息をつきながら、起き上がる。
「リュゼリア様」
「おはよう、マーサ」
心配そうな顔をしたマーサが私の顔を覗き込んだ。
「あまり眠れなかったのですか?」
「少し考え事をしていただけだから、大丈夫よ。気にしないで」
それでもなお心配そうな顔をしているマーサに微笑んで見せる。
「ほら、とても元気よ。でも、そうね。……後でお昼寝しようかしら」
「ぜひ、そうしてください」
冗談っぽく言ったのに、強く頷かれてしまった。
……そんなにひどい顔してるかしら。
鏡を見ると、確かに目が充血していた。
これじゃあ、ぜんぜん眠れてないです! って言っているようなものよね。
とりあえず、冷たいタオルを目にあてて、目を冷やした。
「リュゼリア様、やはり、ラグルナ湖で何かあったのですか……?」
「……そうね」
何かあったと言ったらあった。
エドワード陛下とアイリにもあったし、アキルの発言も気になるし。
「私どもでは力になれませんか?」
「マーサたちはいつも力になってくれているわ」
でも、今回の件をストレートに伝えるのは憚られる。
だって、一国の王が何者かに操られている可能性があるって、よっぽどのことだわ。
いえ、もしかしたら、アキルが言っていたのは何かのたとえかもしれないけれど。
というか、そうであってほしい。
そうじゃないとこの国……ログルスは、かなり危険な状態にあるってことだし。
……でも、そうね。
「ねぇ、マーサ」
「はい」
「マーサは、とんでもなくいやなことを人にされたとして。それが、その人の本来の意思じゃなかったら、その人のこと、赦せる?」
マーサは考え込んだ。
そうよね。答えがなかなかでないわよね。
だって、本意じゃなかったとはいえ、傷つけられたことは事実なんだもの。
「……私は」
マーサの回答に耳を傾ける。
「赦したい、と思うと思います。でも、本当に赦せるかはわかりませんが」
「……そうね」
私が一晩で考えた回答もだいたいマーサと同じだった。
赦したい、とは思うかもしれない。
でも、実際に赦せるかは別問題。
それに、操られていたのが、どこまでかもわからないし。
「ありがとう、参考になったわ」
「……いいえ」
そして、ここで深く聞いてこないマーサは本当に私のことをわかってくれている。
マーサに朝の支度を手伝ってもらいながら、考えた。
そもそもアキルはなぜ、あの場面で、エドワード陛下のことを口に出したのかしら。
アキルとエドワード陛下が出会ったのは、あの場所が初めてだと思う。
でも、そんな初対面の人を見て、操られているかもって、わかるものかな。
そういえば、アキルは錬金術師……なのよね。
錬金術師で、特別な体質を持っているとも言っていた。人の顔が記憶に残らないという。
じゃあ、エドワード陛下の顔を見て、何かがわかったわけではないということ?
……わからない。
「……リュゼリア様?」
はっとする。
「え、ええ。いつもありがとうマーサ」
支度を整えてもらったお礼を言って、立ち上がる。
表情は先ほどよりずいぶんましになっていた。
「いいえ。それでは、朝食がお待ちですよ」
「ええ、そうね。いってきます」
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