わたしの味方(アイリ視点)
そうして、迎えた今日。
エドは、やっぱり夢見が悪くてよく眠れなかったみたい。
馬車の中で、うとうとしているエドは、青白い顔をしていた。
「……リア。リュゼリア」
寝言で名を呼ばれるほど愛されているくせに、その手をあっさり放した、元王妃様。
こんな幸福をなぜ手放すのか、わたしにはわからない。
……可哀想なエド。
どうして、そんなにリュゼリア様がいいんだろう。
わたしにはその良さがさっぱりわからないけど……。
もしかして、刷り込みかなぁ。決められた婚約者だったから、好きにならざるを得なかった、ってこと?
まあ、なんでもいっか。
エドは、まだ目を覚ましてないだけ。
いつかちゃんと、わたしだけを見てくれる。
だって、わたしたちはそうなる運命だもの。その証だってある。
「ねぼすけすぎるよ、わたしの王子様は」
……まったく、エドったらしょうがないんだから。
そんなことを考えながら、エドの寝顔を眺めつつ、馬車に揺られていると、馬車が止まった。
やっと、目的地に着いたみたい。
エドをゆすって起こす。
「エド、着いたよ?」
「……ん」
長いまつ毛を震わせて、瞼を開けたエド。そうすることで顕になる翡翠の瞳は、どんな宝石よりも美しいわたしの宝物だ。
「……あぁ。すまないな、アイリ。眠ってしまっていた」
「ううん、いいの。疲れが溜まっちゃってたんだよ」
「……ありがとう」
それから馬車を降りて、エドは愕然としていた。
「ここは……」
「ラグルナ湖、だよ! 気持ちがいい場所だから、エドと来たかったんだ!」
……というのも本当だけれど。ここは、恋が大好きな女神が最初に降り立った湖だから、カップルに人気がある。
そんな場所にお忍びとはいえ、エドと来たら。周囲はわたしをどう思うかな。
そう思って、ここにした。
「アイリ……悪いが、ここは……」
エドは早く立ち去りたそうに、わたしから視線を逸らした。
やっぱりそうだよね、と思いつつ、ずきりと胸が痛む。
「ねぇ、エド――」
まだ気づかないの? わたしたちは運命なんだよ?
そう言って、馬車に引き返そうとしたエドを引き留めようとしたとき、エドはある一点を見て、固まった。
「なぜ?」
「エド……?」
「なぜ、リュゼリアが……?」
呆然と呟かれた視線の先には、リュゼリア様――わたしの恋敵で、元王妃様の後ろ姿があった。
「やだっ、リュゼリア様じゃないですか!」
――やっぱり、神様は、わたしの味方だ。
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今回のアイリ視点はひとまず、この話で終了の予定です。




