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恋心に苦しむ王妃は、異国の薬師王太子に求愛される【WEB版】  作者: 夕立悠理
二章

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ラグルナ湖

 ――翌朝。

 朝の支度をマーサに手伝ってもらっていると、メイカが手紙を持ってきた。

「薬師殿からです」

「……アキル殿から?」

 なんだろう。

 手紙の封を開けると、ふんわりと甘い香りがした。

 この香り……ゼラニウムかしら。

 ……手紙に香りづけをするなんて、洒落ているわね。

 感心しながら、美しい筆跡で書かれた手紙に目を通す。

 ラグルナ湖へ今日の夕方に行かないか、との誘いが書かれていた。

 そういえば、後日にしよう、とだけ決めて、日程を決めていなかった。

 特に断る理由もないので、了承の返事を書いた手紙をメイカに渡した。

「ラグルナ湖……かぁ」

 それなら、どんな髪型にしようかしら。

「楽しみですね、リュゼリア様」

 悩んだ挙句、少し下の位置でハーフアップをしてもらった。

「……ええ。とても楽しみ」




 夕方になって、アキルが離れを訪れた。

「ロイグ嬢、今日の髪型もとても素敵ですね」

 そう言って微笑んだアキルに微笑み返す。

「ありがとうございます」

 アキルも今日も相変わらず、整っていた。

 でも、なんだかそれを口にできず、エスコートするために差し出された手を取る。


「実は私もラグルナ湖は、初めてで。だから、楽しみです」

 ラグルナ湖の伝説を意気揚々とアキルに話したものの、実は一度も行ったことがない。

「! ……そうなのですね」


 アキルはゆっくりと瞬きをすると、嬉しそうに笑った。

「ロイグ嬢と一緒に初めてを経験できて嬉しいです」

 その笑みは、まるで、年相応の青年のようで。思わず見惚れてしまった。


「……ロイグ嬢?」

 不思議そうに呼びかけられて、ようやく、時が動き出す。

「い、いえっ、なんでもありません……」

 赤くなっているだろう頬を隠すように、帽子を被り直す。

 ——初めてのラグルナ湖は、とっても楽しい思い出になるに違いなかった。



 馬車の中では、他愛ない話をした。今日もイーディスの料理が美味しかったこと。マーサがいつもより気合を入れて、髪を結ってくれたこと。メイカが、昨日あげたアクセサリーを早速つけてくれていたこと。


 どれも本当に他愛ない話だったけれど、アキルはそのどれもに微笑んで聞いてくれた。

 だから、とても話しやすかったし、もっと話したいと思った。


「アキル殿は、聞き上手ですね」

 ふと、思ったことを口に出す。

「いえ、違いますよ」

「え?」

 まさか、否定の言葉が出てくるとは思わなかった。

 でも、こんなに話しやすいのに。

 疑問に思っていると、アキルは、笑った。


「もし、私が聞き上手だと感じたなら、あなただからです。誰だって、気になっている相手のことは知りたいと思うでしょう?」

「!」

 頬が、熱い。

 いや、頬だけじゃない。

 身体中が熱くなった。

 ……気になっている。

 昨日は、妻になって欲しいとかもっとすごい言葉を言われたのに。そんな言葉よりも、なぜだか効果があった。


「……ロイグ嬢?」

 照れた顔を誤魔化すように、俯いて黙った私の顔を、アキルが覗き込む。

 アキルの青い瞳に映る私は、これ以上ないほど、狼狽えていた。


「!」

 けれど、そんな私を見たアキルの頬もじんわりと赤くなる。

「ロイグ嬢……」

「……なんでしょう」

 照れた空気のまま、アキルに応える。

「私は、あなたのことが気になっています」

「!!」

 なんで、なんで二回も言ったの?


「……私も」

 混乱する頭は、思っていても口には出さなかった言葉を簡単に吐き出した。

 えっ、今私なんて言った!?

 アキルに聞こえてない……わよね?

 恐る恐るアキルの顔を見る。

 すると……。

 アキルは、驚いた顔をして固まっていた。

 その後、ゆっくりと唇が弧を描く。


「!」

 それはまるで、子供がプレゼントを貰ったときみたいに、嬉しそうな顔で。


 ——だから、違うとも、嘘だとも誤魔化せないまま、甘い時間が過ぎた。

 そんな照れた空気は、馬車が止まったことにより、終わりを告げる。


「つきましたね」

「……つきましたね」

 お互いまだ照れが残っているからか、同じ言葉を言いながら、馬車から降りる。

 すると、とても美しい光景が目の前に広がっていた。

「わぁ……」


 夕日に照らされたラグルナ湖は、きらきらと輝いている。

 その美しさに二人で見惚れていると、見知った声がした。

「なぜ……」


 一気に現実へと引き戻されるのを感じながら、帽子を深く被る。すると、もう一度なぜ、と聞こえた。


「リュゼリア……?」

 更に呆然と、つぶやかれた名前は聞こえないふり、ができた。

 でも。


「やだっ、リュゼリア様じゃないですか!」

 親しげに、それこそまるで友人のように気安く呼びかけられた名前は、無視ができなかった。

 どくどく、と心臓が脈打つ。

 

 

 なんで、どうして。


 そんな思いが胸の中からせり上がり、思わず声の方へと振り向いてしまった。

 そこにいたのは、そう。

 ——エドワード陛下とアイリ、だった。


いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

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お読みいただき有難うございます!
運命は、手に入れられなかったけれど
連載中です!
― 新着の感想 ―
[一言] ここで会わせるか! 正に鬼畜の所業…(笑)
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