一瞬のような永遠のような
「私の家族ですか?」
「はい。以前、一番大切な想い出についてお伺いしたとき、ロイグ嬢は、御父上に星を貰ったことだとおっしゃいましたね」
「はい」
だから私は、私だけの星を見つけるために、努力を重ねたいと思ってる。
「御父上とロイグ嬢の関係は知ることができましたが、他のご家族はどうなのかと気になりまして」
……なるほど。
私が実際にそうなるかは別として、私を妻にしたいと考えているアキルが、私の家族関係に興味を持つのは当然だものね。
「そうですね……。私は、陛下の婚約者となってからは、ずっと王城で暮らしていたので、しばらく家族とは疎遠になっていました」
……でも。
「ですが、こうして実家に出戻った今も、温かく迎えてくれる優しい家族です」
お母様も、弟も、お父様も。
みんな、私に優しい。
それだけは、確かだった。
「そうなのですね」
アキルが柔らかく微笑む。
……と、そこで馬車が止まった。
目的地に到着したみたいだ。
アキルにエスコートされて、馬車を降りる。
すると――。
「わぁ……!」
色とりどりの花が舞っていた。赤、薄青、ピンク、黄、オレンジ、白……鮮やかな色彩が、街を彩っている。
「やはり、あまり花降祭に参加されたことはなかったようですね」
……花降祭。それは、私たちの国の王都で年に一度行われる祭だ。
ずっとみてみたいと思っていた祭でもある。私は、開会の挨拶にエドワード陛下と共に出席するだけで、すぐに王城に帰っていた。それは、警備の面からして最善のことだったと思う。
でも、本当は、ずっと、参加してみたかったのだ。
「でも、よくご存知でしたね」
他国の祭りまで、頭に入れているとはさすが大国の王太子。
「えぇ。あなたを口説きたいので」
「!?」
く、くどっ……!?!?!?
甘く囁かれた言葉に、赤面してしまう。
あまり、そういう言葉を言われたことがないので、耐性がないのよね。
「……ふふ。その可愛らしい表情は、私だけに独占させてくださいね」
アキルはそういうと、私の耳にかけた花を抜く。そして馬車の中に置いてきたままだった、私の帽子をとり、花を飾ると、私に被せた。
流れるような動作で帽子を被せられ、その手際の良さに感動する。
確かに、私は一応元王妃だし、この国で出かけるなら、帽子は必須よね。
「さぁ、行きましょう。ロイグ嬢」
「……はい!」
花降祭。それは、この国で信仰している女神に捧げるお祭りだ。花と恋が大好きな女神のために、花で王都中を飾り付け、そしてお祭りの最後には、一番愛し合っているカップルが選ばれるコンテストもある。
そんな花降祭をアキルにエスコートされて歩く。
露店もたくさん出ていて、王都中がにぎわっていた。
そんな中、私がまず足を止めたのは、花のガラス細工を売っている露店だ。
「どれが気になりますか?」
「そうですね……」
どの細工も綺麗だけれど。特に目を引くのは……。
「この青いバラ、でしょうか」
青いバラの花弁は薄く透き通っていて、本当に綺麗だ。
日の光に照らされて。きらきらと輝いている。
「では、店主。こちらを頂けますか?」
「あいよ!」
「アキル殿!?」
私だって、そんなに高額ではないものの、お金を持ってきている。これくらいなら、余裕で出せる範囲内だ。
慌てて、アキルを止めようとしたけれど……。
「私がロイグ嬢に贈りたかったのです」
そういって、柔らかく微笑まれると、止められない。
「ありがとうございます」
なので、止める代わりに素直にお礼を言うことにした。
「いいえ。どういたしまして」
包んでもらったガラス細工を落とさないように、手に持って、歩く。
次に気になったのは、花をモチーフにしたアクセサリーを扱っている露店だ。
「可愛いですね……!」
イヤリングも指輪も腕輪もとっても可愛い。
思わずあれも可愛いこれも可愛いとはしゃいでいると……。
「……ええ、本当に」
「アキル殿も可愛いと思われますか!?」
アキルの同意する言葉に、振り向く。
すると、アキルはアクセサリーではなく私を見つめていた。
「……アキル殿?」
話を合わせてくれたのかしら。
そう思って首を傾げると……。
「これなんて、可憐なあなたに似合いそうだ」
赤の花をモチーフにした耳飾りをあてられる。
「やはり似合っていますね」
そう言って微笑んだアキルは、これ以上ないほど穏やかな瞳をしていた。
「瞳を輝かせたあなたも、可愛らしいですね」
青の凪いだ海のような穏やかな瞳に見つめられると、途端に息ができなくなる。
瞬きも忘れて、アキルを見つめ返した。
その瞳にも、その瞳に映る私も。お互いしか映っていなかった。
一瞬にも、永遠にも感じられた時間は、誰かの声によって、終わりを告げた。
「……リュゼリア?」
「!」
人混みの中でだって、聞き間違えるはずがなかった、その声は。
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