お受けします
それでも、私は離婚をしたばかりで。
この誘いを断るべきだ。
わかってる。
……わかってる、けど。
「私は……」
目の前のアキルについて、私が知ることは多くない。錬金術が使えて、大国ルクトバージの王太子で、紫が好き。
それだけしか知らない人のことを、知りたいと思うのは、それも離婚をしたばかりで、当然ではないのかもしれない。
でも。
私は、私だけの星を今度こそ見つけると決めたから。
そのために、様々なことを経験してみたいと思うのだ。
「……その誘いをお受けします」
ゆっくりとそう言葉にすると、アキルが途端に破顔した。いつもの完成された笑みとは違い、安堵と喜びが混ざった笑み……のように見えた。
その笑みを見ると、胸の中にふわりと何かが湧き上がってきたような気がした。気のせいかもしれないけれど。
「では、早速出かけましょうか」
「……は、はい」
アキルは立ち上がると、私が腕に抱いている花束から花を一輪抜いた。
「アキル殿?」
「これから行く場所には、花は欠かせませんからね」
そして、そっと私の耳に花をかける。
「?」
花が欠かせない場所ってどこだろう。
でも、そうね。出かけるのだったら、花束は置いていったほうがいいだろう。
マーサに花を飾ってもらうように頼んでから、アキルと共に離れを出る。
「お手をどうぞ」
アキルは、いつのまにか馬車を手配していたようで、エスコートされてその馬車に乗り込む。
「アキル殿は……」
「はい」
馬車が出発した後、ふと思ったことが口に出てしまった。
「女性慣れ……してらっしゃいますね」
私のエスコートは大抵エドワード陛下だったから、エドワード陛下が基準になるけれど。
ここまでの短い道中でも、エスコートの仕方が丁寧だなと感じたのだ。エドワード陛下が特別がさつだとか、そんなことはなかった。
ただ、アキルはなんというか、圧倒的に、慣れている……感じがする。
まるで、幼い頃からそうするのが当たり前、のように育てられたかのように。
「……えぇ、まぁ、そうですね」
気恥ずかしそうに視線を逸らしたのは、どうしてかしら。
「私には、姉がいまして。その姉のおかげですね」
「そうなのですね!」
お姉さんがいたのね……!
納得だわ。
ルクトバージの王族構成は、他国にはほとんど知られていない。
また一つ、アキルのことについて、知ることができた。
「はい。姉に『将来の奥方に、良いところを見せるのよ』と散々練習させられまして」
「……なるほど」
将来の奥方のところで意味ありげに私を見たのは気付かないフリをして、頷く。
「ところで、ロイグ嬢。ロイグ嬢のご家族について、お伺いしても?」
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!
もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!!




