お誘い
「そう……だったのですね」
私を見つめるアキルの瞳に曇りはなく、ただ穏やかな光を湛えている。
「はい。あなたが、あの高潔な恋をなくしても、王のそばにいたいと願うなら、身を引くつもりでした」
でも、そうじゃなかった。
私は、エドワード陛下から離れたがったものね。
「ロイグ嬢」
アキルは私の前に跪くと、私の手を取った。
「私は、あなたを妻に望んでいます。ですが、突然のことで、混乱しているでしょうし、何より、あなたも……私も。互いのことをほとんど知らない」
「……そうですね」
それは間違いないことだわ。
頷きつつ、次の言葉を待つ。
「ですので、親睦を深めたいと考えています。まずは……共に出かけてみませんか?」
「それって……」
もしかして、もしかしなくても。
「はい、デートの誘いです」
微笑んだアキルは、本当にキラキラしていた。なんというか……近寄りがたいほどの美しさのはずなのに、親近感もある不思議な笑みだ。
「ですが、私は……」
まだ、離婚をしたばかり。
そう……離婚といえば。
「……離縁した私が、王太子であるあなたと婚姻するなんて、問題でしょう?」
そのはず。少なくとも、この国ではそうだ。
「いいえ。私の妻として、認められる条件は、ただ一つ。私が選んだ、ということです」
ええ、でもそんなのって……。
私がとんでもない傾国の女だったらどうするのかしら。
「ああ、そういえばロイグ嬢に伝え忘れていましたね」
「?」
なにかしら。
「私は、今のところ王太子ではありますが、王になるかはまだ確定ではありません」
「……? どういうことですか?」
王太子。つまり王位第一継承者、ということではないの?
「私は、私の妻となるべき人……もしくは、股肱の臣を探し求めていました」
「はい」
それはさっき聞いた。
「これが、最終試験なのです。ルクトバージの王太子が、次の王になるためには、これと定めて連れてきた人物が国民に認められる必要があります」
「え……ええっ!?」
じゃあ、私がもしこのままアキルについていったとして、国民に認められなかったら……。
想像して、血の気が引く。
「そんな、心配そうな顔をしないで」
「い、いえっ、でも……。さすがに荷が勝ちすぎるといいますか……」
そもそも他国の王妃だった女性を、自国の新たな王妃として認めるって、私が国民だったらなんとなく嫌な気がする。
「私はあなたなら、国民から認められると確信しています」
えっ、ええええええー。
私の中には全くそんな自信はないわ!
「無理です!!!!!!」
はしたないとわかっていながら、音が出るほど首を横に振る。
そんな私を楽しげに見つめて、アキルは微笑んだ。
「私を信じて……と言いたいところですが、まだ私たちはお互いのことを知らないですし。やはり、共に、出かけるのはいかがでしょう?」
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また、「お飾りの妻役、喜んで拝命いたします!」という新連載も始めてます。下にリンクがあるので、ぜひそちらも読んでいただけたら嬉しいです!




