本心
「あなたが、判別できる人物……?」
判別も何も、アキルは一度しか会ってない私が変装したときに見抜いたくらいだ。
観察眼はかなりのものだろう。
「はい。私は、ルクトバージの王族でもある錬金術師です」
やっぱり、あの薬は錬金術で作ったのね。
納得しつつ、アキルの言葉に頷く。
「この力は稀有な能力ですが、デメリットもあります」
「デメリットって、もしかして……」
「はい。人の顔の見分けがつかないのです。表情は読み取れるのですが、具体的な目鼻のパーツは記憶に留まらない」
でも……。
「それなら、どうやって過ごされたのですか?」
アキルは王太子だ。会わなければならない人も、覚えなければならない人もたくさんいるだろう。
「服装や声、その人のクセなどで判断してきました」
それは……とても大変なことだと思う。
「ですが、あなたは違いました。あなたの姿は、この世界から浮き出て見える。世界の中で、あなたの周りだけ縁取りがされたように輝いて見える」
は、と息を呑む。
それは、私がアキルと城下町で再会した時に思ったことと一緒だった。
「……それに」
なんだろう。
「あなたは、眩い」
「……私が?」
私が眩いようには、私自身では思えないけれど。
「ずっと一途に愛し続ける――それこそ、その想いごと死を望むほど、そんな風に人を愛せるあなたは眩く映りました」
「!」
死を望む、ってことは。
「アキル殿、あなたがあの薬をくれたのは……」
ずっと、疑問に思っていた。
どうして、アキルは、はっきりと恋心をなくす薬だと言わなかったのだろうって。
「ロイグ嬢、あの日あなたは死を望む瞳をしていました。疲れ切って、今にも消えてしまいそうだった」
頭痛薬も用意はしていたのですが、とアキルは続ける。
「この国に長く留まる予定はなかったですし、旅を続ける旅費が稼げればという気持ちで薬師を名乗っていました。ですが」
私を見て微笑むその表情は、心からの安堵が浮かんでいた。
「気が変わりました。あなたの、あの日の表情を見て、私はあの薬を渡すべきだと考えた。でも、普通に渡すだけでは飲まないかもしれない」
だからあんなふうに言ったのだと、続けてアキルは海のような深い瞳で私を見つめる。
「恋心を失う薬、なんて普通の薬師には作れない。私の素性が明らかになる可能性も考えました。そうすれば、面倒なことになる。でも、そんなことよりも」
アキルは、一度俯き、息を吐き出した。
そして、私を再び見つめる。
「あなたの眩さの理由でもある、その高潔な恋のために、疲れ切っているあなたを、放ってはおけなかった」
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