条件
アキルを見ると、彼は微笑んだ。
「……アキル殿?」
この反応の意図がわからず戸惑う。
「――そうですね。私は、ルクトバージの王太子です」
やっぱりそうなのね。王太子だったのは、予想外だけれど。
ルクトバージの王族は、国王と王妃以外、表舞台には出てこない。
だから、私もアキルの存在を知らなかったのだ。
「ですが、だからといってあなたに、距離を取られるのは悲しい」
その表情は嘘を言っているようには思えなかった。
……でも。
「なぜ、でしょうか……?」
私に距離を取られると悲しがる理由がわからない。
一番に考えられるのは、アキルの探し物……よね。
その探し物が何なのか全くわからないけれど。私に質問をすることで、探し物が見つかるのだという。
「ロイグ嬢」
まっすぐに、凪いだ海の瞳は私を見つめていた。
「私は探し物を見つけに、この国を訪れました」
「……はい」
そのことは知っている。
「探し物は、今まで様々な国を探しても見つかりませんでした。でも……この国でようやく、見つかりそうなのです」
「その探し物って……?」
一体、なに? いつも半端じゃ意味がないとか、ふんわりとしたことしか教えてもらえなかった。
「――あなたです」
「…………………え」
探し物が――私!?
でも、私が過去にアキルに出会っている……ということは、記憶の限りでは、ない。
「正確には、私の妻となるべき人、もしくは、股肱の臣になりうる人……を探していました」
つまり、いずれは王妃としてアキルを支える女性か、一番信頼のおける家臣か、そのどちらかを探していたってことよね。
私が王妃のときからアキルは、私にそのどちらかの可能性を感じていたというのなら……。
やっぱり股肱の臣かしら。……でも。
「私は、政務などでは期待されるほど、お役に立てないかと思います」
確かに私は元王妃だけれど、任される公務は少なかった。一番の公務である子供を産む、ということが果たせなかったから。
でも、私がアキルの腹心に……というのは、考えもしなかった道だわ。
「いいえ、ロイグ嬢。あなたには――私の妻になっていただきたいと考えています」
「……え?」
私が、アキルの妻に? そしていずれは王妃になれと、言うの?
「私にそんな大役、務まりません」
それに、私はまだアキルのことをほとんど知らない。
せいぜいが、好きな色は紫ということだけ。
それにアキルも、私のことをほとんど知らないはずだ。
「公務や政務のことなら心配しないでください。私が妻に望む条件は一つだけ」
一つ……? そう言っても、アキルは大国の王太子だ。
とんでもない条件に違いない。
アキルは、私の目をまっすぐに見つめた。
「私が判別できる人物であること」
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