お父様
……さて。ついに今日が来てしまった!
「王妃殿下?」
「……緊張しているの」
なぜかは言うまでもない。マーサも察してくれたようで、頷いた。
「きっと、大丈夫ですよ」
「……そうね」
なるようにしかならないもの!
それに、そろそろ朝食の時間だわ。
イーディスがせっかく美味しく作ってくれた朝食を味わって食べなくっちゃ。
「行ってきます」
「はい。行ってらっしゃいませ」
――食事の間には、今日もエドワード陛下はいなかった。
ここ最近がおかしかっただけで、これが通常なので、特に気にはしない。
イーディスの料理は、まだ少し緊張が残っているから、砂の味……なんてこともなく、今日もとっても美味しかった。
今日も食材が奏でるハーモニーに、うっとりと酔いしれた後。
自室に戻り、息をつく。
面会の予定時刻まであと少し。
メイカがミルクティーを淹れてくれた。
温かなミルクティーは、じんわりと私の心と体をほぐした。
「ありがとう、メイカ」
「いいえ。お役に立てたなら、幸いです」
……と丁度そこで、マーサがやってきた。
「ロイグ公爵閣下がお見えです」
「ありがとう。通して頂戴」
お父様とまともに話したのは、星の宝石を貰ったとき以来だ。
でも、大丈夫。きっと、大丈夫よ。
わりと落ち着いた気持ちで、お父様と対面する。
「王妃殿下、この度はお時間を頂き、ありがとうございます」
「こちらこそ多忙の中足を運んでくださりありがとう、ロイグ公爵」
お父様の瞳を見つめる。
私とおそろいの紫の瞳はゆらゆらと揺れて、まるで、星のようだった。
そっと、人払いの合図を出す。
マーサたちが、静かに消えた。
「手紙を……拝読しました」
静かなお父様の言葉に、ごくりと喉を鳴らす。
「私は……」
お父様は、そこで言葉を切り、私を見つめた。
「王妃殿下……いや、リュゼリア。この婚姻がお前の為になるのだと信じていた」
「……お父様」
知っている。お父様が、私の幸せを願ってくれていたこと。あの星は、その証だ。
「……だが、そうではなかった。そうとわかったときに、もっと強く声をあげるべきだった。この家から王妃を選出する誉れよりも、お前の幸せを取れなかったこと、申し訳なく思う」
「いいえ。務めが果たせず、申し訳ございません」
例えば、私がもっと魅力的だったら。私にもっと勇気があったら。
エドワード陛下がアイリを囲ったり、白い結婚のままだったりはなかったかもしれない。
「この婚姻関係を続けることは、お前にとってもこの国にとっても不幸だ。議会には、今日中に掛け合う」
「お父様……!」
ほっと息を吐きだす。
「あと少しだけ……そんな言葉に耳をかすべきではなかったな。リュゼリア、お前の居場所は、公爵邸にちゃんとある。安心して帰ってきなさい」
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