目標
「……星、ですか?」
ゆっくりと瞬きをしたアキルに、頷く。
「私が陛下の婚約者に正式になって、この城に来る前日に、父が星をくれたのよ」
私は、椅子から立ち上がると、引き出しを開けた。
そこには、青く光る星形の宝石が入っている。
光にかざすと、星はより輝きをまし、遠い記憶を呼び覚ます。
「星は、温度によって色が変わるのですって。青い星は、最も温度が高いらしいわ」
――いいかい、リュゼリア。
お父様は、私に星を握らせると、囁いた。
――お前は、お前だけの星を必ず見つけるんだ。
「お父様は青い星を探せと、言ったの。一番熱を持っていて、私が一生追いかけ続けられる高い目標を」
――だけど。
「私は、その目標を見失ってしまった」
エドワード陛下に恋をしていた当時の私は、エドワード陛下こそ、私の星……生涯の目標だと考えた。
エドワード陛下を傍で支え、国の繁栄に尽くし、そしていつかはエドワード陛下との未来を繋いでいく。
……そんな目標。
けれどその願いは叶わなかった。
「ねぇ、アキル殿」
「なんでしょう?」
「あなたには、本当に感謝しているの」
私は、ずっと見失った星に手を伸ばし続けていた。
でも、一度見失ったものは、もうどこにあるのかわからなくて。
ただ、宙を掻くだけだった。
「あなたのおかげで、私は新たな星を探しにいける」
アキルに微笑む。
私がかつて焦がれたあの星には、もう届かなかったけれど。
新たな道は示された。
「……王妃殿下」
「改めて、ありがとう。私、今度こそ見つけてみせるわ」
私だけの星を、必ず。
「アキル殿……?」
眩しそうに目を細めたアキルに首を傾げる。
「……いえ。では、王妃殿下と私は、探し物仲間ですね」
「ふふ、そうね」
仲間、と言われるとくすぐったい感じもするけれど。
「では、王妃殿下」
「待って」
立ち去ろうとした、アキルを引き止める。
「いかがなさいました?」
案の定、アキルも不思議そうな顔をしていた。
「あなたの……あなたの好きな色も知りたいわ」
そもそも、この質問に答える時間は、アキルへのお礼として設けている。それなのに、私が質問してどうするの、とも思うけれど。
なぜだか、何かを聞きたくなったのだ。
咄嗟に色が出てきたのは、昨日された質問だからだろう。
「紫……でしょうか」
まっすぐ私を見つめながら放たれたその言葉を残して、アキルは恭しく礼をし、今度こそ退出した。
「……紫、ね」
そういえば紫の星って、何か意味があったような気がするけれど。なんだったかしら。
私の目も紫だから、お父様が何か言っていたような。
「まぁ、いっか」
それよりも、明日ね!
この面会に全てがかかっているといっても過言ではない。
今日は、どこも出歩かず、明日に備えて早く寝ましょう。
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