だって、私たちは
「リュゼリア」
幼い、声がする。
「どうしたの? ぼーっとして」
ぼんやりと、目を開けると、そこには幼いエドワード陛下がいた。
まだ王太子だった頃のエドワード陛下に、いえ、と首を振る。
……ここは、死後の世界かしら。
あら、だったら、エドワード陛下がいらっしゃるのはおかしいわね。だって私はあの薬を自分で飲んで、エドワード陛下に盛っていない。だから、エドワード陛下が死んでいるはずはないのだ。
では、私の願望かしら。
あの頃に戻りたいっていう、死の間際の私の願いが見せた幻想。
それなら、良かった。
最後に見るのが、幼いあなたの夢なら怖くない。
「リュゼリア?」
考えて黙り込んだ私を心配そうにエドワード陛下が見つめる。
「いいえ、エドワード殿下」
「そう? 困り事ならいつでもいってね。なんたって、私たちは……」
——私たちは、夫婦になるのだからね。
それは、幼い頃のエドワード陛下の口癖だった。いつもいつも、私たちは夫婦になるのだから、そう言って穏やかに微笑んで、私が悩み事を話す気になるまで待っていて、くれた。
エドワード陛下は、いつもいつでも私を尊重してくれたのに。
いつからだったかしら。
まず、笑顔を見せてくれなくなった。その次に、会話が減った。そして最後は目も合うことも少なくなって。
そして、即位後、エドワード陛下は、アイリを王城に賓客として迎えた。
婚姻して一度も夜を共に過ごさないまま、二年が過ぎて。それでも、アイリの部屋には足繁く通われて。
心がちぎれそうな日々だった。
でも、もうそんな日々はおしまいだから。
「私たちは、夫婦になるはずだったのに……」
幼いエドワード陛下のいつもと違う言葉に首を傾げる。私の夢なのに、変なの。
私たちは夫婦にはなった。形だけのものだけど。
エドワード陛下が私を見つめる。
悲しそうな顔をしていた。
「『私』は、もう要らないね」
「要らない?」
「うん。私は、『さき』のリュゼリアには必要ないみたいだ。それも自業自得なんだけど」
……さきってなに?
そう尋ねようとしたけれど、叶わなかった。
急に、意識が遠ざかる。
私、ついに死ぬのかしら——。
「さよなら、リュゼリア」
そうとても悲痛に満ちた表情で言った言葉が聞こえたのを最後に、何も見えなくなった。
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