いい考え(エドワード視点)
それから、アイリとの治療の日々が始まった。
私以外にもアイリは不思議な力で病や怪我を治したことがあったようだ。
「でもね、エドみたいにすぐに治る人ばかりじゃなかったの。治療に時間がかかる人ばかりだった」
今までアイリが治療した人の中で最長は三年かかったという。
……三年か。
長いな、と思った自分を否定する。
三年、私は一人で足掻いたのだ。あと、もう三年くらいわけないだろう。
それにこの病が完治すれば、私は今度こそリュゼリアを幸せにできる。
「エド?」
「あっ、ああ……すまない。考え事をしていた」
「大丈夫だよ。もしかしたら、エドはもっと早く治るかもしれないし!」
……そうだな。そうであってほしい。
「それで、アイリ。どうしたらいい?」
「手を握るだけだよ。はい!」
アイリから差し出された手を取る。
リュゼリアの手よりも、小さなその手。
「どう、よくなった感じする? 体が熱くなるような感覚は?」
「……わからない」
私が首を振ると、アイリはそっか、と手を離した。
「気長に行こう! ……って、奥様のことを考えたら早いほうがいいよね」
「いや、ありがとう。少し気が楽になった」
その日から時間を見つけてはアイリを訪ねるようになった。
——そんな日々を続けて二年間。
最近、少しずつアイリの手を握ると、体が熱くなるようになってきた。
あと、もう少しなのだと、感覚でわかっていた。
それなのに……。
「リュゼリアは、もう、私のことなどどうでもいいのか? リュゼリアは……」
あんなに頑張ったのは、一体なんのためだったのか。
リュゼリアにただ、幸せを与えたかっただけなのに。
「……リュゼリア」
呆然とその名を呼ぶと、リュゼリアの言葉が蘇った。
——私、ずっと苦しかったのです。苦しくて苦しくて、死にたかった。
「っ!」
リュゼリアは、死にたかったと言ったのだ。
死すらも、選択肢に入るほど苦しかったと。
でも、私は……。
「エド!」
「………………アイリ」
名前を呼ばれてのろのろと顔をあげると、アイリが立っていた。
「どうして、君が私の部屋に……?」
「そんなことは、今はどうでもいいわ! それより、エド!」
アイリはつかつかと私の方へ近づくと、私の頬をその手で包んだ。
「ねぇ、エド。何があったの? ……顔が真っ青よ」
「……それ、は」
「わたしじゃ、力になれないかな?」
そうだ、アイリなら。私の命を救ってくれたアイリなら、力になってくれるかもしれない。
私は、リュゼリアに言われたことをすべて、話した。
「……なるほどね」
アイリは、大きくため息をつくと、私を見つめた。
「王妃様のそれ、ほんとに信じたの?」
「……アイリ?」
エドは本当に純粋さんだなぁ、と微笑んでアイリは続けた。
「きっと嘘よ、嘘。エドの気が引きたかっただけだわ」
「だが、私がリュゼリアを——」
死にたくなるほど、苦しめたんじゃ……なかったのか?
「ううん、大丈夫よ。エドはなんにも悪くない。ねぇ、エド。わたしにいい考えがあるの」
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