もしも、兄上なら(エドワード視点)
5年前、その検査をしようとしたのは、ほんの気まぐれだった。
わたしの思い描く幸福とは、愛する人がいて、愛する人との子供がいて、守るべき国があって。それが、幸福なのだと考えている。
だから。
ひょんなことから耳にした言葉が胸に残った。
「近頃は、男性が原因の不妊もあるらしい」
会話の一つ、何気ないその言葉。
愛する人との子供、つまり、リュゼリアとの子供は、とても可愛らしいに違いない。だから、私のせいで生まれない可能性はゼロなのだと証明したかった。
万一リュゼリアに原因があり、子が望めないなら、子は傍系からとればいい。
でも、私のせいで、子がなせないのは、許されない。
だって、そうでなければ、私は兄上を越えられない。兄上以上の幸せを、リュゼリアに与えられないから。
——だが。
「……は?」
「ええですから、今のままですと、陛下にお子が生まれる可能性は0かと」
私には、子種がないらしい。
そう聞いた時、どれほど絶望しただろうか。
「原因として考えられるのは、やはり幼い頃患われた病でしょう」
◇◇◇
その日から、リュゼリアの前で、うまく、笑えなくなった。
心の中で、どうしよう、という思いばかりか渦巻き、顔が引き攣ってしまうのだ。
リュゼリアに、幸せを与えられなければ、リュゼリアはダルク兄上のほうが良かった、と思うんじゃないか。
私と婚約するんじゃなかったって、後悔されたら。
いや、リュゼリアは、そんなこと……。
でも、兄上なら。
いや、そもそも、兄上だって同じ病になったわけで、兄上だって無理だったに違いない。
でも、完璧だった兄上だったら、他に方法を探し、なんとか自分の血を繋げるだろう。
どうやって……、どうしたら。
頭の中でさまざまな考えが浮かんでは消えていく。
リュゼリアに、正直に話す、という選択ははなから存在しなかった。
だって、兄上ならリュゼリアに話す前に解決しただろうから。
それから、結婚までの三年、様々な医者にかかった。口封じの謝礼を弾み、手当たり次第治療を受けた。
けれど、一向に良くならない。
結婚まで、あと三ヶ月をきったある日。
思い出した。
私を、病から救ってくれた幼馴染——アイリの存在を。
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!
もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!!