もう、終わりにしましょう
ガラスの小瓶に入った液体は、黄金色をしている。
薬師が帰った後、人払いを済ませ、ひとりその小瓶を見つめていた。
「楽になれる、か……」
確かに死ねば楽になる。愛されない王妃を続けなくてもいいものね。
ずっと返ってこないひとを愛し続けるのはとても疲れるし。
私、ことリュゼリアは、公爵の娘として生を受けた。私は元々、第二王子のダルク殿下と婚約する予定だった。第一王子殿下はすでに病で亡くなっており、ダルク殿下は実質的な王太子だったのだ。
けれど、私はダルク殿下と婚約を結ぶことはなかった。
ダルク殿下も、第一王子殿下と同じ病に倒れたから。
そして、王位継承権の低かったエドワード陛下が王太子となり、そしては王となった。
エドワード陛下は、辺境の地暮らしが良かったのか、同じ病にかかることはなく、現在に至る。
「一目惚れって、厄介よね……」
そう、私は王太子として婚約することになったエドワード陛下に、顔合わせのときに一目惚れをしたのだ!
黒い髪に翡翠の瞳をした、エドワード陛下。
幼いながらも、理知的な瞳をしたエドワード陛下は私の手を握った。
「リュゼリア嬢、兄上の代わりにはなれないけれど。私は私として、精一杯あなたの婚約者として務めるよ」
私が本当は不安がっていることを、一瞬で見抜き、そう言ってくれたエドワード陛下に私は一目惚れをした。
私たちは、お互いを尊重する国王夫妻になれる。そう、思っていたのに。
エドワード陛下は、即位後すぐに幼馴染だというアイリを城に招いた。
アイリの部屋には足繁く通う彼は、決して私の部屋に訪れない。
「なんだか、全部馬鹿馬鹿しくなってきた……」
白い結婚を続けて、二年になる。このまま、私は王妃としての真の役割も果たせずに、暮らし続けるくらいなら。
ずっと、愛を返してくれないエドワード陛下に焦がれ続けるくらいなら。
アイリに嫉妬し続けるくらいなら。
——もう、全部終わりにしよう。
私は、小瓶の蓋を開け、一気に中身を飲み干した。
体が、軽くなったような気がして、その後に強烈な眠気を覚えた。
あぁ、苦しまずにすむのね。
最後に、幼いエドワード陛下の顔を思い浮かべながら、目を閉じた。