私は君を
「……陛下」
って、いやいやいやいや。なんで、エドワード陛下がこの部屋に無断で入ってきたの?
ちらり、と扉に視線をやると、顔を真っ青にした衛兵がいた。
……なるほど、そういうことね。
エドワード陛下は、この国の主人であると共に、この城の主でもある。
彼に開けろ、と言われて開けられない部屋はない。
……でも。
「女性の部屋に無断で入られるのは、いかがなものかと」
まっすぐエドワード陛下を見つめる。もう、私がおみまいした手形は、消えていた。
「ああ、それは悪かった」
全く悪く思ってなさそうな顔でエドワード陛下は鼻を鳴らした。
「それで? 体調が悪いのか?」
「はい。たった今悪くなりました」
無断で部屋に入ってくる誰かさんのせいでね! なーんて、ことは流石に不敬罪になるので言えないけど。
「……そうか」
エドワード陛下は、どかっと私と向かい合わせのソファに座った。
「……陛下?」
えっ、なになに。何がしたいの?
怖いんですけど。体調悪いって言ってるんだから、帰ってくれないかしら。
「いや、私の妃の見舞いでもしていこうかと思って」
本当に私の体調を気遣う気とかゼロよね、これ。そもそもエドワード陛下が来たのは、きっと何かしらの用件があったのよね。それが終わるまでは、帰る気なんてないってことかしら。
……仕方ない。
私はため息がつきたくなるのを抑えて、メイカにエドワード陛下用の紅茶を淹れるように頼んだ。
「……それで」
「それで?」
メイカが紅茶を持ってきたのを確認して、エドワード陛下に話しかける。
「どういったご用件でしょうか?」
「妻を訪ねるのに、理由が必要か?」
まさかの、特に意味はないけど来たってこと? わざわざ部屋に入ってきてまで?
エドワード陛下の考えがさっぱりわからないわ。
それとも、やっぱりビンタの件かしら。
頭の中で様々な考えが浮かんでは消えていく。
「一度もいらっしゃったことはなかったと記憶しておりますが」
婚約者だった頃はそれなりに行き来もあったけれど、結婚してから一度もなかった。
「……っ、それは」
エドワード陛下は言った。私の夫も、私が恋い慕うのもエドワード陛下だけだと。
でも、そもそも夫としての役割を今まで果たして来ずに、なんで今更私に構うの? というのが、私の気持ちだ。
「それとも、何か、理由がおありですか?」
今更、私を気にする理由。そして、今まで私を放っておいた理由。
まぁ、今更知ったところで、もう私はエドワード陛下のことなんとも思わないけれど。
あ、でもこのままだと一年後に復活するのだったっけ。
「私は——リュゼリア。君を愛しているんだ」
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