あり得ない
「……死んだ、だと?」
「ええ」
だって、私は毒薬だと思ってあの薬を飲んだのだ。結果がどうであれ、死にたいと思っていたのは事実。そして、実際、私は生まれ変わった。エドワード陛下に恋をしていない私に。
「……っふ」
「陛下?」
エドワード陛下は、俯いて肩を震わせた。どうしたのかしら。
「ははっ、面白い——冗談だな」
顔を上げると、エドワード陛下は私を見つめた。
「冗談……?」
私の恋心が死んだことがそんなにおかしいのかしら。
「あぁ、冗談だ。君が、私に対する執着心を手放すなんて、あり得ない」
「!」
それは、以前の私の態度は凄まじかったかもしれないけれど。今の私は、過去とは違う。
「……私も驚きですが、あり得たようですの」
まぁ、薬のおかげなんだけどね!
私はご馳走様の礼をして、立ち上がった。
「信じるか信じないかは、陛下次第ですが——」
これで失礼します、と退出しようとした時だった。
エドワード陛下も、立ち上がったのだ。そしてかつかつと、踵を鳴らしながら、私の方に近寄る。
「……陛下?」
こんなに距離を詰めて何をしたいのかしら。
話すだけなら、引き止めればいいのに。
疑問に思いながら、その名を呼ぶと、更に距離を詰められた。
「?」
えっ、なに、なんなの?
無言の圧が怖いんですけど!
仕方がないので、一歩下がると、二歩分距離を詰められる。そうしたことを繰り返した結果、ひたり、と冷たい感触が背中に当たる。つまり、壁際まで追いやられたのだ。
……まさか、逃げ道を塞いだつもり?
そんなことして何になるのかしら。
「リュゼリア」
翡翠の瞳を見つめる。けれど、その瞳からは、感情を読み取れない。
「……はい」
「——覚えておけ」
……何を?
「君の夫は、誰なのか。そして、君が恋い慕うべき男は誰なのかを」
「私の夫は陛下ですが、恋い慕うべきなんて、決められている人なんて、誰も——!」
言葉の途中で、顎を掴まれる。
「なに、を……」
「覚えておけ、リュゼリア。君の夫は、そして、君が恋い慕うのも。未来永劫この——私だ」
そう言って、顔が近づけられる。
まさか……?
いえ、でもそんなはずないわよね。
ただ、自分のものだと思っていた相手が、違って怒っているだけ。
エドワード陛下は私のことなんとも思ってないはずだもの。
そうこう考えている間にも、距離はどんどんと近づいてくる。
顔を背けようにも顎を掴まれているせいで、上手くできない。
「……いや!!!」
私は思いっきり、右手を振りかぶった。
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