渡された薬
「……はぁ」
自室に戻り、息を吐く。
「リュゼリア様、大丈夫ですか?」
侍女のマーサが、心配そうに私を見つめた。
「ええ、ありがとう」
マーサは、私が幼い頃から私に仕えてくれている侍女で、二人きりのときはこうして私を王妃ではなく、名前で呼んでくれる。
「王妃殿下、お疲れのところ、申し訳ありません。来客があるのですが、通してもよろしいですか?」
マーサに紅茶を入れてもらっていると、別の侍女が入って来た。
「来客?」
「はい、最近話題の薬師です」
「……ああ。異国の薬師ね」
なんでも噂によると、異国からやってきた彼が煎じた薬を飲むと、疲れが一気に吹き飛ぶらしい。
最近、頭痛がする私のために、マーサが手配してくれたのだ。
「通して頂戴」
入ってきた薬師は、たしかに異国の人だった。
燃え盛る炎のような赤い髪に、澄み切った青い瞳。
赤い髪、というのはこの国では存在しない。
薬師は、うやうやしく礼をすると、私にガラス瓶を差し出した。
「これは王妃殿下が今、最も欲している薬です」
「頭痛を減らしてくれる薬でしょう? ありがとう」
薬師の貴族ほど綺麗な発音に驚きつつ、お礼を言う。
薬師は、いいえと首を振った。
「頭痛薬よりももっと王妃様にとって必要な薬です」
「……そう」
私が必要とする薬。けれど、それがなにかは明確には口にしない。いかにも胡散臭いけれど。
「……飲めば『楽』になれますよ」
「!」
マーサたちには聞こえない声で、薬師が囁いた。
つまり、これは毒?
「……ふふ、誰に使うかは王妃様次第です」
最後にそう言い残して、薬師は帰って行った。
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