美味しい理由
何かしら……はっ!!
「私としたことが! 申し訳ございません。エドワード陛下」
エドワード陛下が怒るのも納得だわ。私がどうかしてたもの。
「……わかったのなら、い——」
「料理長を呼んでくださいな! 今すぐ!!」
「………………………………は?」
急いで給仕に指示を出し、これでお怒りも冷めたわよね、とエドワード陛下を見る。エドワード陛下は、なんとも言い難い表情をしていた。
? ? ? なぜ、そんな表情をされるのかしら。さっぱりだわ。
「王妃殿下、料理長を呼んで参りました」
「あぁ、来たのね。ありがとう」
とりあえず、エドワード陛下のことは放っておくとして。
「料理長……名前は、イーディスと言うのね」
料理長の胸についている、金のプレートを見ながら、名前を読み上げる。女性の料理長なんて、珍しいわね。
「は、はい……王妃殿下」
イーディスは、震えていた。
あら、怖がらせてしまったかしら。反省反省。いきなり初対面の人に名前を呼ばれたら怖いものね。
「イーディス、私があなたを呼んだのは……」
私はそこで言葉を切り、イーディスを見つめた。
「あなたの素晴らしい料理に直接お礼を言いたかったからよ! いつも美味しい料理をありがとう」
「……え?」
こんなに美味しい料理を作ってくれるイーディスは最高の料理人だわ。
驚いているイーディスに私の身につけているイヤリングをはずし、その手に握らせる。
これは、私の個人のお金で買ったものだ。
「これは、そのほんのお礼よ」
「えっ、え? でも……」
表彰したかったけれど、手持ちがこれしかなくて申し訳ないわ。
「とっても美味しかったし——それになにより、お肉の焼き加減が私好みだったわ」
「……!」
イーディスが、はっ、と息を呑んだ。やっぱりそうだったのね。
「私、今まで味の感想なんて一つも言っていなかったでしょう? 料理だって、楽しくなさそうに食べてた。本当に申し訳ないわ……でもそんな私の反応を見て、好みを研究してくれたのよね。ありがとう」
「王妃殿下……!」
イーディスの瞳から熱い雫が零れた。
こんなに美味しいのは、なにも私の恋心が消えたからだけじゃない。イーディスが、料理を『私好み』に寄せてくれたからだ。
「い……いつも、料理を残されていたから、それで……試行錯誤して……」
「えぇ。ありがとう」
ずびずびと鼻を啜り出したイーディスの顔を、ハンカチでそっと拭う。
「ありがとう、今日の料理もとっても美味しかったわ。苦労をかけたわね」
「め……めっそうもないことでございます」
そして私たちは、感動のハグを……。
「ごほん!!!」
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