溺愛する私
露店を一通り見て周り、王城に戻った。
エドワード陛下は、なんの気紛れを起こしたのか、私の自室までわざわざ送ってくれた。
そもそも忙しいはずのエドワード陛下が、なぜ城下町にいたのか、とか。
城下町であのあとずっと私と一緒で良かったのか、とか。
色々と聞きたいことはあったけれど、それよりも疲れの方が優り、それらの言葉は口の中で溶けて消えた。
「陛下、ありがとうございました」
「……あぁ」
小さく頷くと、踵を返したエドワード陛下の後ろ姿をぼんやりと見つめる。その姿が完全に消えたのを確認して、扉の外から自室の中に入ると、思い切り叫んだ。
「疲れたわー!」
好きでもなんでもない人と過ごす休憩時間——特に相手は高位の人——気を遣わないはずもなく。
そういえば、露店巡りの後半、エドワード陛下ずっと何か言いたげな顔をしてたわね。
どうしたのかしら……?
とか、なんとか。
もうどうでもいいー!
私は、私を溺愛するので忙しいのよ!! 他人に構っている暇はないわ!
でもその前に大事な人にお礼を言わなくっちゃね!
ずっとそばにいてくれたマーサにお礼を言う。
「マーサ、今日は付き合ってくれてありがとう」
「いいえ。リュゼリア様を見失ってしまい、申し訳ありませんでした」
「もう、そのことは気にしないで。私も悪かったから」
まだ少し落ち込んでいるマーサを励まして、メイカを呼び出す。
「王妃殿下、おかえりなさいませ。お風呂の支度もできております!」
さすができる侍女だわ。
メイカにも、ただいま、と服やかつらを貸してくれてたお礼を言って、せっかくなので、お風呂にそのまま入れてもらう。
溺愛する私のために、今日はいつもよりもお高めな入浴剤だって使っちゃうんだから!
入浴剤の効果で乳白色になったお湯に肩まで浸かる。温かなお湯に浸かると、体の疲れが出ていく気がする。
「はぁー、生き返る!」
さっきまで、精神的に死んでいたものね、私。
……というか、今日が色々とありすぎたのよね。
お風呂の縁に頭を預けて、今日あった出来事をおさらいする。
まず、目を覚ますと恋心が消えていて。そして、一人で朝食を食べて、初めてのおかわりをした!
あの朝食とってもおいしかったわ。夕飯は何かしら。夕飯に思いを馳せていると……お腹の虫が鳴った。私って本当に食い意地が張っているのね。
その後、少ない公務をして、髪を切った。
肩と胸の間しかない髪を摘む。
腰まであった髪がなくなって、ずいぶんスッキリした。明日はどんな髪型にするか楽しみ!
そして、平民の格好をして城下町に出かけたのよね。そこで、恋心を消してくれた薬を作った薬師——アキルと出会った。
アキルは探し物をしてるって言っていたわね。
半端では意味がない。唯一でなければ、ってどういうことかしら。まぁ、私が考えても仕方ないわね。
それで、アキルと別れた後、エドワード陛下と出会って。
そういえば、エドワード陛下から、耳飾りをいただいたのだったわ。あの耳飾りどうしようかしら。
以前の私なら四六時中身に着けたでしょうけど。
私は、溺愛する私に、好きでもない男から業務外で贈られたプレゼントを身に着けさせるような真似はしないわ!
……といっても、全く使わないのは勿体無いから、着ける機会があれば使うっでいいかな。
うーん、こうして考えると本当に今日という短期間に色々なことが起きたわね。
明日は、もっと素敵な日になるといいな。いえ、絶対なるわ!
なんと言っても、嫌われ王妃は死んだのだ。そして、今日から愛され王妃になったんだものね。
うんうん、エドワード陛下と婚約する以前の前向きな本来の私がちゃんと戻っているわね。
この調子で、前向きに楽しく私を溺愛しましょう!
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