プレゼント
エドワード陛下と城下町の露店が多い通りを歩く。
以前ならときめいていたはずのこのシチュエーションも、今ではときめくどころか胃が痛いだけだ。
……むしろ、アイリ嬢に代わって欲しいくらいだわ。
そう心の中で盛大に愚痴りつつ、エドワード陛下を見つめる。
御年19になられたエドワード陛下は、私が一目惚れをした時よりも一般的に見て、更に魅力的な男性になっている……のだと思う。
濡羽色の髪は相変わらずサラサラだし、顔のパーツの細部の配置も嫌味なほど整っている。
……まぁ今やもう全くときめかない相手だし、芸術品を眺めるくらいの気持ちに近いわね。
会話がないことをいいことに、その顔を眺めていると、エドワード陛下の翡翠の瞳と目が合った。
「どうした?」
「いえ、考え事をしておりました」
……そうか、と小さく呟いて、エドワード陛下はところで、と話を切り出した。
「どうして、急に外出したいなどと言い出したんだ? そのようなこと、今まで一度もなかっただろう」
「私の知っている世界の狭さを知ったからです」
以前の私の世界の中心は、エドワード陛下だった。でも、恋心が消えて、私は私の世界がいかにちっぽけだったか知ったのだ。
「……世界の狭さ、か」
私の言葉を繰り返すとエドワード陛下は、足を止めた。
「……?」
どうしたのかしら。
「私には、愛しい小鳥の翼を引きちぎる趣味はない」
「……はぁ」
なんのこと?
思わず間抜けな声が出てしまった。
小鳥の羽を引きちぎるようなサイコな人だったら始めから好きにはならなかっただろうけど。
それに、大事にしてる小鳥の翼を引きちぎるってよっぽどよね。
「それだけ、覚えておいてくれ」
「? ……はい」
さっぱり意味がわからないわ。
まぁ、覚えておけと言われたから、覚えておこうかしら。
「ところで、君は緑色が好きだな?」
「ええ、まぁ……?」
緑色は、エドワード陛下の瞳の色だったから好きだったけれど、今となっては好きかも微妙なところだ。だけど、まぁ、嫌いではないので頷く。
「店主、これを」
「あいよ」
立ち並ぶ露店の一つに、安価で可愛らしいアクセサリーを扱う店があった。エドワード陛下はそこで、緑の耳飾りを買うと、私に手渡した。
「? これは?」
「あまり高価なものではないが。今の姿の君にはいいんじゃないか」
——つまり、プレゼントしてくれるということらしい。
別に耳飾りを欲していると一言もいってないんだけどなぁ。
好きな人に貰うと嬉しいものも、どうでもいい人から貰うと、こんなにも対処に困るのね。
まぁ、でも、物には罪はないので受け取っておく。
「……ありがとうございます」
実際、緑の耳飾りはとても可愛らしかった。陽の光に当てると、キラキラと輝いている。
その輝きは、エドワード陛下の瞳に似ているな、と思いながら、そっと鞄の中に耳飾りをしまった。
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