表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/65

魔法のような

「そうなのね。せっかく留まるのだから、この国で探し物が見つかると良いわね」

「はい、ありがとうございます。……ところで」


 どうしたのかしら。

 私が首を傾げると、薬師は微笑んだ。

「名乗り忘れておりました。私は——アキルと申します」

 あまり耳馴染みのない名だ。

「アキル、ね。覚えたわ」

 耳馴染みはないはずなのに、その名は不思議と舌には馴染んだ。


「さて、王妃殿下、そろそろ侍女殿が心配なさる頃合いでは?」

「え……?」


 マーサは私の近くにいるはずだけれど……。

 そう思い辺りを見回すけれど、マーサの姿が見当たらない!


 そうだわ、私はこの薬師——アキルに気が取られて、立ち止まってしまった。でも、マーサは目的の露店通りの店まで歩いていっていて……。


 もしかしなくても、はぐれたんだったわ!


 相変わらず、町は活気にあふれており、人が多い。この中から、マーサを探すのは骨が折れそうだ。

 どうしよう。


「大丈夫ですよ。……ほら、あなたを呼ぶ声がする」


 アキルの言う通り、耳を澄ますと遠くから私を呼ぶマーサの声が聞こえてきた。

「それでは、王妃殿下」


 初めて出会った日のように、アキルは恭しく礼をすると、雑踏の中に消えた。

 その姿をぼんやりと眺めていると、強く腕を引かれる。


「リュゼリア様!!」

 マーサだ。

 マーサはいかにも心配したのがわかる顔をしていた。なので、素直に謝罪をする。


「……え、ええ。ごめんなさい、マーサ」

「いえ、こちらこそ見失いまして申し訳ございません。お怪我などはありませんか?」


 拐かされずにすんで良かったです、とほっと息を吐いたマーサに首を振る。

「ええ、ないわ。……ありがとう」


 今度こそはぐれないように、と人混みをマーサとくっついて歩く。

「リュゼリア様、やはり何かありましたか?」

「……え? どうして?」


 何かあったといえばあったけれど。


「リュゼリア様は、誰かを探されているようなので。わたしといない間、だれかと会われたのかと」

「!」


 見抜かれた。さすがはマーサ。長年私に仕えてくれているから、なんでもわかってしまうわね。


「あのね、薬師にあったのよ。ほら……頭痛薬をくれた」


 本当は頭痛薬ではない。結果的に頭痛は治ったから、頭痛薬でもぎりぎり嘘じゃない、と思いたい。


 それに、心に作用する薬なんて胡散臭い効果を口には出せなかった。


「あぁ、彼ですか。それで、彼を探してたんですか?」

「あの赤い髪はこの国ではとても目立つでしょう? でも一瞬で見えなくなったから……まるで」


 ——まるで、魔法みたいだなって思ったのよ。


 そう続けようとした言葉は、よく聞き慣れた声によって遮られた。

「まるで、どうしたんだ?」

いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記Amazon様の書籍リンクです
恋心に苦しむ王妃は、異国の薬師王太子に求愛される
お読みいただき有難うございます!
運命は、手に入れられなかったけれど
連載中です!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ