魔法のような
「そうなのね。せっかく留まるのだから、この国で探し物が見つかると良いわね」
「はい、ありがとうございます。……ところで」
どうしたのかしら。
私が首を傾げると、薬師は微笑んだ。
「名乗り忘れておりました。私は——アキルと申します」
あまり耳馴染みのない名だ。
「アキル、ね。覚えたわ」
耳馴染みはないはずなのに、その名は不思議と舌には馴染んだ。
「さて、王妃殿下、そろそろ侍女殿が心配なさる頃合いでは?」
「え……?」
マーサは私の近くにいるはずだけれど……。
そう思い辺りを見回すけれど、マーサの姿が見当たらない!
そうだわ、私はこの薬師——アキルに気が取られて、立ち止まってしまった。でも、マーサは目的の露店通りの店まで歩いていっていて……。
もしかしなくても、はぐれたんだったわ!
相変わらず、町は活気にあふれており、人が多い。この中から、マーサを探すのは骨が折れそうだ。
どうしよう。
「大丈夫ですよ。……ほら、あなたを呼ぶ声がする」
アキルの言う通り、耳を澄ますと遠くから私を呼ぶマーサの声が聞こえてきた。
「それでは、王妃殿下」
初めて出会った日のように、アキルは恭しく礼をすると、雑踏の中に消えた。
その姿をぼんやりと眺めていると、強く腕を引かれる。
「リュゼリア様!!」
マーサだ。
マーサはいかにも心配したのがわかる顔をしていた。なので、素直に謝罪をする。
「……え、ええ。ごめんなさい、マーサ」
「いえ、こちらこそ見失いまして申し訳ございません。お怪我などはありませんか?」
拐かされずにすんで良かったです、とほっと息を吐いたマーサに首を振る。
「ええ、ないわ。……ありがとう」
今度こそはぐれないように、と人混みをマーサとくっついて歩く。
「リュゼリア様、やはり何かありましたか?」
「……え? どうして?」
何かあったといえばあったけれど。
「リュゼリア様は、誰かを探されているようなので。わたしといない間、だれかと会われたのかと」
「!」
見抜かれた。さすがはマーサ。長年私に仕えてくれているから、なんでもわかってしまうわね。
「あのね、薬師にあったのよ。ほら……頭痛薬をくれた」
本当は頭痛薬ではない。結果的に頭痛は治ったから、頭痛薬でもぎりぎり嘘じゃない、と思いたい。
それに、心に作用する薬なんて胡散臭い効果を口には出せなかった。
「あぁ、彼ですか。それで、彼を探してたんですか?」
「あの赤い髪はこの国ではとても目立つでしょう? でも一瞬で見えなくなったから……まるで」
——まるで、魔法みたいだなって思ったのよ。
そう続けようとした言葉は、よく聞き慣れた声によって遮られた。
「まるで、どうしたんだ?」
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