探し物
「あなたは……」
あのときの薬師だ。
急に、人混みが遠ざかったような気がする。
まるで、薬師だけが世界から浮き出ているかのように、はっきりとこの目に映る。
そう見えるのは、やはり顔のパーツが整い過ぎているからかもしれない。
あのときは頭痛が酷くて、そこまで意識を向けていなかったけれど。こうして見ると、異国から来たからという理由だけではない、威圧感のような何かを覚えた。
こんな感覚は、先王夫妻に初めて出会った時以来で、思わず身構える。
「まさか、薬は役には立ちませんでしたか?」
そんなはずはない、と知っている顔で、薬師は尋ねてきた。
「薬はとっても役に立ったわ。ありがとう」
「そうですか、それは良かった」
薬師の形のいい唇が弧を描く。それと同時にふっと威圧感のような何かが和らいだ。
「私の知る薬の中でも調合が難しい薬でしたから、少しだけ心配だったんです」
「そうなのね……」
それにしても、心に作用する薬だなんて、この国では聞いたことがない。そんな薬を作れるなんて、この薬師はどこからきたのかしら。
「あなたは、異国から来たのよね?」
薬師はうなずいた。
「はい。遥か彼方より、探し物を求めて」
「探し物……」
それこそ探し物が見つかる薬くらい、この薬師には作れそうな気がする。
「そんなに、見つけるのが難しいものなの?」
「はい。何せ、半端では意味がない。唯一でなければ」
??? 探し物に半端も何もあるかしら。
考え込んでいると、薬師は笑った。
「ふふ、王妃殿下——あなたは面白い方ですね」
「え!?」
面白い要素がいったいどこに!?
「表情がくるくる変わって、まるで、少女のようだ」
「!」
……からかわれているだけね。
王妃として威厳がないってことが言いたいのだろう。
まあ、いいけど!
エドワード陛下のために表情をあまり変えずに威厳を保つなんてことはやめたのだし!
あれ、そういえば。
「あなた、私に気づいたのね」
私は今かつらをかぶっていて、服装だって王妃が着るものとは似ても似つかない。
それなのに、彼は私を王妃と呼んだ。
「……! たしかにそう、ですね」
「?」
皮肉を言われるのかと思ったら、意外にも、薬師は私の言葉に驚いた顔をした。
まるで、私の言葉に困惑しているみたいだけれど、どうしてかしら。
彼自身は私が王妃だと知っているはずなのに。
「どうしたの?」
「……いえ、もしかしたら——」
もしかしたら?
その続きを期待したけれど、薬師はそこで言葉を切った。
そして、美しく微笑む。
「もう少しこの国に滞在させていただきます」
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!
もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!!
※たくさんの応援、ありがとうございます。
いいねなども大変嬉しいです!




