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愛されたいと、願っていたの

 ――夫に愛されたいと、願うことは罪なのかしら。

「王妃様ぁ!」

 王城の中庭を歩いていると、鈴を転がしたような可憐な声が、私を呼んだ。

「……なにかしら、ダルゼン嬢」

 愛らしい金色の髪を揺らしながら駆け寄ってきたのは、アイリ・ダルゼン男爵令嬢だった。

 アイリは私の顔を見て、むうと唇を尖らせた。


「ダルゼン嬢、だなんて冷たいです! わたしのことは、アイリって呼んでくださいっていつもいってるじゃないですか。王妃様はエドの奥様なんだから」


 ……エド。

 親し気に呼ばれたその名に、眉を寄せる。

「では、アイリ嬢」

「なんですか王妃様?」

 名前を呼ばれたことで機嫌をよくしたのか、ぱぁ、花が咲いたかのように顔を輝かせたアイリ。その姿は女の私からみても、愛らしい、とさえ思う。


「陛下の愛称を軽々しくお呼びになるものではありません」

「……でも、エドはエドです! わたしたちは、幼馴染なんですから」

――そう、アイリと私の夫であるエドワード陛下は、幼馴染だった。当時王位継承順位の低かったエドワード陛下は、辺境の男爵領に追いやられたのだ。


「もしかして、王妃様ったら……わたしに妬かれているんですか?」

「――!」


 妬いている。妬かないはずがないわ。陛下は私の夫なのに、アイリに夢中だ。

 そもそも男爵家の娘でありながら、アイリがこの王城で暮らしているのもエドワード陛下たっての希望だった。

 だから、アイリはここにいる。

「だったら、わたしに妬く必要なんてないんですよ! わたしとエドはただの幼馴染ですから」

 ただの幼馴染。

 だったらどうして、エドワード陛下は、あなたの部屋に足しげく通うの?

 私の部屋には訪れるどころか、顔を合わせるのも公務のときだけなのに。

 そんな恋に浮かされた嫉妬の言葉が口からでそうになり、思わず口元を手で覆う。

「……王妃様?」

「いえ、なんでもないわ」

 息を吐きだし、アイリを見つめた。


「アイリ嬢、とにかく陛下の愛称を人前で連呼するのはよくないわ。陛下はあなたの幼馴染かもしれないけれど……立場があるのだから」

 男爵令嬢と一国の王。その差は歴然だ。

「ひどい! 王妃様は、わたしがエドの幼馴染として釣り合ってないっていいたいんですか!?」

 

 その通りよ。

 でも、涙を浮かべて叫ぶアイリを見ると、まるでこちらが悪いような気さえしてくる。

「どうしたんだ、アイリ。そんなに声を荒らげて」

 涼やかな、声だった。聞き間違えるはずのないその声に、はっとする。

「エド! 王妃様が……」

 エドワード陛下にかけよるアイリは、本当にしおらしく、私でも庇護欲をそそられる。

「――また君か」

 アイリの肩を抱き、鋭い視線で私を見つめるエドワード陛下からは、愛情のひとかけらさえ感じられない。

「……ごきげんよう、陛下」

「リュゼリア。……アイリを虐げて何になる」

 久々に呼ばれた名前にときめく自分が恨めしい。

「虐げたことなど一度もございませんわ」

 ただ、事実を言ったのみだ。


「アイリは、私の希望でこの王城にいる。その意味をわからない君ではないと思うが」

「そうですね……そんなにお好きなら正式に愛妾にでも迎えるのはいかがでしょう?」

 口から出た言葉は、ずっと思っていた言葉。でも、言わないようにしていた言葉でもあった。しまった、と思ったけれどもう遅い。


「リュゼリア、君はなんてことを!」

「ひどいです、王妃様! わたしに妾になれっていうんですか!」

「そうですね、間違えました。アイリ嬢を新たに王妃に据えられてはいかがでしょう」

 私の言葉に、エドワード陛下は眉を顰めた。

「王妃は二人もいらない」

「ええ、ですからその場合、私はお暇をいただきたく」

 エドワード陛下の傍を離れるなんて考えてもみなかったけれど、案外、いい案かもしれなかった。王妃としての私は生き続けても、このままでは女の私が死んでしまう。


「リュゼリア、私は――離婚する気はないからな」

 その言葉はまるで、私を繋ぎ留めたいように見えるけれど、その理由は恋情ではない。

 エドワード陛下は私の実家――ロイグ公爵家の後ろ盾が欲しいからだ。


 それでも、このまま飼殺されるのは耐えられない。

「……そうですか。少々気分がすぐれないので、失礼いたしますね」


いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

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