ゆりえの浮気6 - 激情
僕はグラスに氷を入れると、ゆりえの買ってきてくれた、タカラ焼酎をグラスに注ぎ、ウーロンハイを作ろうとした。
“浮気、相手をゆりえが誘った、生外だし”、その事が頭をぐるぐる回って、動転していたんだろう。
グラスを、シンクから落っことしてしまった。僕は慌てて拭こうとしたが、一足先にゆりえが何も言わずに、こぼれたウーロンハイを、ちり紙で吹き、しかも新しいウーロンハイを作ってくれた。そして自分のウーロンハイも。
彼女なりの贖罪からの行動だったのだろうか。
それから実は僕は話し合いとは名ばかりで、ゆりえを攻める事しかしなかった。頭に血が上っていた上に、いらだちが頂点だった僕は、喋り方も荒々しかった。
「つか、お前さ。そもそも昨日は、終電で帰ってくるって言ってたよな?それで、電話してそしたら、始発で帰るって。なのに帰って気もせずに、しかも、バーでたまたま会った奴と、ホテル行くって舐めてんの?つか、どこのホテルに行ったの?」
「I島だよ」
「あ、そう。セックスレスで浮気したんだし、さぞ、色んな体位でやりまくったんだろうな」
自分で喋っておいて、なんて下衆な事を聞いたと思った。
ゆりえは少し間をあけてから
「ずっと正常位だったよ」
一瞬僕の心が傷んだ。
「あそう。てかさ、2年間も同棲をして、生活費は95%は俺が払ってる。しかもゆりえは病気だ。支えようと頑張って働いたり、アドバイスもした。なのになんで裏切るわけ?舐めてんの?」
そう、彼女は過去の中学のいじめの影響で、電車で人の声が怖いので目を閉じないと乗れない、咳払いが悪口に聞こえる等、どうも普通の精神状態とは思えない症状を呈していた。
初めのうちは、気にもしていなかった。
が、接客のバイトを2箇所も、一ヶ月単位でクビになったり、咳払いをしただけの店員に、ゆりえが悪意のある咳払いを返して、店員を怯えさせ、その事で俺と喧嘩になったりで、どうも様子がおかしいと思い、精神科に受信させたのだ。
断された病名は統合失調症だった。
「レンとセックスレスだったし、アキさんと話していてしたくなった」
確かにセックスレスではあったが、前はある程度のセックスはしていた。
だが、最近はゆりえが飲んでいる薬のせいで、性欲がなくなってしまっていたし、毎日、15時間も寝たきりの状態だった。しかも、薬の副作用で、動きがスローモーションのような状態になっていた。動画サイト設定で、0.5倍速にしている登場人物を見るような状態だ。
後、これも副作用でだが、表情からも喜怒哀楽がなく、ただぼんやりと危ない薬をしている人間のような状態だった。ゆりえは本当は一人では出歩くのは危ない状態だったのだ。
それなのに、いきなり性欲が湧くわけがない。昨日、薬を飲まなかったのと、酒を飲みまくったせいでやりたくなっただけだというのは分かっていた。
セックスレスが言い訳なのはわかっていた。だから余計に、頭に血が上った。激情を抑えようと必死に止める僕がいた。
「セックスレスなら浮気してもOKなんだな?じゃあ、俺は元カノとやってくるわ」
「だめ」
僕は話し合いというより、苛立ちを、ゆりえにぶち撒けていた。
「別れた時の話し合いをしよう。正直、もう二度と会いたくないからよ。てか、もう二度と歌舞伎にくんな」
「それはやだ」
「大好きなセフレの外人さんとこで飲んで、家でやりまくってればいいじゃん。昔みたいに」
ゆりえは言葉に詰まってしまっていた。僕はひたすら、畳み掛けた。
「じゃあ、スモバーと31には2度と来ないで。それ以外はどこでも行っていいわ」
「31はやだ」
いらいらする。
「じゃあ、俺がもう歌舞伎に行かねーわ。にしなさんに、よろしくな」
にしなさんとは、仕事で代表取締役をやっているお金持ちで、よくお酒を奢ってもらっていた。
パトロンではないのだが、お酒を奢ってくれている人で、変わっているが魅力的な人だった。
にしなさんの連絡先を教えるつもりはなかった。ゆりえへの苛立ちから、口から適当にでた言葉だった。
「じゃあ、にしなさんの連絡先を教えて」
月並みな表現だが、頭の中で何かの線が切れた気がした。にしなさんを紹介したのは俺だ。なのに、連絡先を教えろと?
こんな状況だからといっても、ゆりえは自分の事しか考えてないのか。しかも今こうなっている原因はゆりえだ。
悲しさと激情で、僕は我を忘れた。
僕はゆりえのカバン類を何個が掴むと、ブリーチ剤を持ち、カバンを投げ捨て、風呂場にぶちまけた。水垢のついた風呂場に、投げ出されたバッグには、ブリーチ剤によって、いろいろに変色していた。
それをみた、ゆりえは悲しそうな顔をして、脱色されたバッグを回収していた。
僕は後悔と罪悪感と、憎しみによる激情が支配していた。
僕はテーブルにある、タカラ焼酎を飲みほした。
心の中には罪悪感が支配していた。