ゆりえの浮気 - 約束
11月16日の朝、目が覚めると吐き気が酷く、あきらかに二日酔いだった。
僕は吐き気を抑えながら、そばに置いておいたアクエリアスをガブ飲みすると、ふとベットを見た。そこには帰っているはずの彼女のゆりえがいるはずだった。
彼女は15日の昼から歌舞伎町に飲みに行っていた。飲みに行くとき、僕らは約束した。
「終電で帰るよ」
それが昨日の夜には、
「もっと遊びたいから早朝に帰る」
と言って帰って来なかった。
その時も約束を守らない彼女に苛立ちを覚えて喧嘩になったが、結局僕が折れた。
彼女がどうというより、一緒に遊んでいる友達がもうオールをするつもりだったので、悪い気持ちになったからだった。
「ゆりえの事は任せて!私がいるから、浮気とか危ない目には合わせないよ」
一緒にいた友達もそうも言っていたし、彼女のことを信用していたので、頭には来ていたが許す事にした。
が、朝の10時になっても、帰ってきていないうえに、明らかにまだ歌舞伎町で遊んでいる彼女に、僕は苛立ちを覚え、電話をした。が、彼女は電話にはでなかった。
2度、3度、電話をしても出なかったので、仕方ないと諦め、僕は仕事へ行く準備をした。準備はすぐに終わり、そのままバス乗り場へ向かった。
男の準備は楽だ。服さえ着ればすぐに仕事へ行けるのだから。
僕はいつも通り、家の近くにあるバス停から、バスに乗った。
昨日、寝るのが遅く、寝不足だったのもあり、席に座った瞬間に、うつらうつらとして、眠ってしまった。
「ててててててん。ててててててん」
聞き覚えるのある音、LINEの通話の音だ。
バスの中で、寝ている所を起こされた僕は、不愉快な気持ちで、バスの中だからと、すぐ切るつもりで電話を取った。
「今、バスだか」
「ねぇ、レン!そんなことより!ゆりえマジでやばいよ!」
みきという、俺と彼女の共通の友達だった。
「ずっと飲んでんだろ。知ってるよ」
「違う!ゆりえ、浮気してるよ。ホテル行ってた。生外だしだって」
僕はショックで、頭の中がぼんやりした。その次に怒りが頭に湧いてきた。
「バーで会ったやつと?」
「うん」
分かったと僕はいい、すぐにバスを途中下車すると、職場に体調が悪くて休むと連絡し、ゆりえに電話をした。が、数回電話をしても繋がらなかった。
頭にきた僕は、LINEでメッセージを送った。
「今日、男と浮気したんだって?みきから聞いたよ。頭にきたからお前のものすべて捨てるから。さよなら、顔も見たくねぇ」
頭に血が上りまくった僕だったが、本当に荷物を捨てるつもりはなかった。頭に来て言っただけだったのと、こう言えばすぐに帰るだろうと思ったからだ。
僕は帰りのバスに乗り、ショックと、悲しみと、憎悪で何とも言えない気持ちになり、地獄にいるような気分だった。
人生で、家まで帰る時間が、こんなに地獄のようだと思った事はなかった。どうして、浮気なんて、そんな事ばかり考えた。
ゆりえとの出会いは、歌舞伎町のバーだった。。
その時は、単なる友達としてしか思っていなかった。
ただ不思議な事に、ずっと一緒にいたいと思っていた。だから僕らは色々な事をした。
お世話になっているバーで、一日バーテンをしてみたり、ゆりえはヒースのJOKERが好きだったので、二人でハロウィンに、ジョーカーとハーレー・クインのコスプレをしたり、30時間ほど歌舞伎町で飲んだり、ゲームセンターで遊んだりと、常軌を逸するような遊びもしたりした。
あれは出会って半年程だったころだった。ある日、衝撃な事を聞いた。
お世話になっているバーで飲んでいる時だった。
「私、あなたの友達とやってる。他の人とも。10人くらい。Tinderをあわせたら13人とか」
僕は頭がくらくらした。そして激怒した。
「男女関係は自由とはいえ、友達とセフレにするために、紹介したんじゃねぇ。それに他のやつとは、なんでやったの?」
「お酒を奢ってもらいたくて」
風俗で働く女性に失礼な程の理由だ。酒を奢ってほしいから、体を売るなんて。まだ、お金を貰ってSEXをした方がいい。
酒を奢ってほしいから、体を売るなんて。
僕はブチ切れた。何を言ったのか覚えてないくらいに。
そしてゆりえはこう言った。
「もうやめるよ」
僕は安堵した。友達(当時は)としてホッとした。
それから時間が立ち、僕らは付き合い始めた。
馴れ初めは、ゆりえからの告白だった。
僕は友達としてしか思っていなかったから、最初は戸惑った。友達だと思っていたからだ。でも、自分も一緒にいるのが好きだったので、僕らは付き合った。
そして、そのまま同棲を始め、今では2年ほど一緒に暮らしていた。
バスの中で僕は彼女の言った事を考えていた。
「もう、体を売ったりはしないよ」
という事は、本気で浮気をする気でやったという事かと。
バスが家の近くに着き、部屋に帰るとただぼんやりとしていた。
僕は昔の彼女に浮気をされた事はあるので初めてではない。その時も辛かったが。
そして、自分も昔にした事がある。
が、今回はレベルが違う。
ゆりえとは2年間も同棲をしていたし、喧嘩もしたけれど、何も問題がなかった。
あるとしたら、セックスレスと、ゆりえの病気、統合失調症の薬による副作用の対応だった。
統合失調症の薬は、どうしても薬効が強く、ぼんやりとした状態になってしまうのだ。
そして、薬のせいで、ゆりえは性欲がなくなっていた。
頭が悲しみといらいらと、憂鬱で考えがまとまらず、どうしたらいいのか、分からなかった。
11:58だった。
ゆりえから電話がきた。
僕は電話を取ったけれど、なぜかすぐに電話が切れた。
僕はすぐに電話をかけ直した。
「なんだよ!」
「ごめん。服とか捨てないで」
「つかさ、今、お前どこにいんの?」
「バク」
「お前、ふざけてんの?こんな状況で、バーで飲んでるって、お前どうかしてんじゃねーの?」
「ごめん」
ぶち。
僕はゆりえの非常識な行動に頭にきてしまい、電話を切った。
その後は、彼女とのLINEのやり取りの応酬がずっと続いた。
こんな状態になっても、彼女は戻ってくるつもりが無かったのか、帰るという連絡はなかった。
ゆりえは、ただ、"本当にごめんなさい”、”捨てないで”とばかりメッセージを送ってきていた。
僕はやりとりの中で、ふと興味が湧いた。どんな奴とやったんだろうと。
僕はゆりえにメッセージを送った。
"ちなみに誰と浮気したの?いや、興味本位で知りたいんだけどさ”
”バクであった人"
”名前は?"
“あきさん"
聞いた瞬間後悔と、憎悪と怒りが湧いてきた。聞かなければ良かったと思った。自分の好奇心を憎んだ。僕はまた頭に血が上るのが分かった。が、不思議な事に、冷静にゆりえの過ちを選ぶ言葉を選んで責め立てた。
"お前、飲みに行く時、こう言ってたよな?
終電で帰るともいってたし、浮気なんてしないよって。で、終電で帰るって約束を破った。むかついたけど、俺は許した。信用もしてたからな。それなのに、よりによってバーで会った奴と浮気って……
ゆりえを信用していたのに。だからオールも許したのに。
俺の事を舐めてたんだろ?
全ての約束も何もかもを裏切って、ナチュラルに浮気してくる最低な奴の事なんかもう知らないわ。家にあるお前の荷物は全て捨てるからな”
“そしてもう一つ聞きたい事があるんだけどさ、なんで浮気したの?"
”レンとセックスレス"だったから"
嘘だ。彼女は薬のせいで、性欲が無くなっていた。酒を飲む時は、薬を飲まないようにしていたけれど、そんな簡単に効果が消えるような弱い薬ではない。
僕はTwitterを開き、ゆりえのTweetを見た。分かるだけで、六軒以上ハシゴをしていて、彼女がさっきいると言ったバクで、クライナーというショットを、少なくとも6杯以上は飲んでいた。
レスだからというのは言い訳だ。彼女は性欲が強い。少しは本当だと思う。
が、ただ今回に限っては、酔っ払って、そういう雰囲気になり、SEXをしたくなり、ホテルに行ってやったというのが、本当だろう。
僕は更に頭に血がのぼるのがわかった。