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華都のローズマリー  作者: みるくてぃー
序章 物語の始まりは唐突に
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第15話 初デートは波乱万丈?(後半)

「どういう事ですのフレッド様。エスコートしている女性を放っておいて、別の女と話しているなんて」

 現れたのは髪をブロンドに染め上げた? かのように見える一人の女性。

 現在婚約者がいるフレッドがエスコートをしているということは、恐らくこの女性が聞いていた商家のご令嬢なのだろう。

 僅かに髪の根元が黒くみえるので、恐らく黒髪を金髪へと染めているのではないだろうか。

「違うんだマリエラ、ちょっとアリスに話があって」

「アリスですって?」

 今気づきましたよ、とでも言いたげな悪意の籠った嫌な視線。どうせあちらも私の名前と事情ぐらいは知っているだろうし、自分が勝者で私が敗者であることも理解しているだろう。

 だけど最初に感じてしまった印象が私の中で疑問を抱かせる。


 どういう事? もしかして二人はそれほど仲が良くない?

 私と入れ替えと考えれば二人の関係も浅いのだろうが、見た感じ商家のマリエラの方が立場が上で、男爵家のフレッドの方が見下されているようにさえ感じてしまう。


「まぁいいですわ。こんな田舎娘にお話があるというのならどうぞお好きに、その間私はこちらの方とでもお茶を頂いておりますわ」

 初対面の私に対し嫌味を吐くマリエラ嬢、フレッドに冷たく当たったかと思うと、今度は拘束を解いたばかりのジーク様の腕を取り、そのまま立ち去ろうとしてしまう。

 これには私もフレッドも焦ってしまい、慌ててお互いの二人を止めに入る。

「待ってマリエラ、なんでそうなるのさ」

「なんですの? フレッド様はそちらの田舎娘とお話があるというので、気を利かせてあげたというのに」

「だからと言ってこんな男を連れていく必要はないだろう!」

 こんな男……?

 私に優しくしてくださったジーク様。山賊たちを前に命を助けてもらった事もあるし、休みだというのに嫌な顔をせず私のお買い物に付き合ってくれ、イヤリングまでプレゼントしてくれた素敵な人。それをこんな男ですって!?


「マリエラさんでしたか? こちらは貴女の婚約者に迷惑しているのです。もっと手綱を握っていただかなければ困ります」

 少々皮肉の入った言い回しだが、ジーク様をこんな男扱いするような人にはこれで十分。そう思ってワザと煽ってみたのだが。

「ふん、私には関係のない話ですわ。そんな事より私をエスコートしていただけませんか?」

 この女性はどこまで失礼なのだろうか。フレッドも大概失礼だったが、このマリエラは更にその上を行く傲慢さ。

 婚約者であるフレッドには見向きもせず、自分とは関係ないと切って捨てたうえで、女性の色気を出しながらジーク様の腕に抱きつく始末。

 完全に自分の方がいいとでも思っているからの行動だろう。隣にいる私を完全に無視して、強引にジーク様を連れ出そうとしてくる。


「すまんな、今日はアリスのエスコート役なんだ。それに君のお相手は彼だろ」

 強引なマリエラに対し、若干冷たそうな態度をとるジーク様。

 恐らくジーク様にとって、マリエラのような女性はもっとも嫌うタイプではないだろうか。

 しがみ付くマリエラの腕をスルッと解くと、軽く突き放すようにフレッドの方へ押し付ける。


「そろそろ行こうかアリス」

「そうですね。馬車をお待たせするわけにも行きませんし」

 正直文句の一つや二つは言ってやりたいが、これ以上二人に関わるのは私の精神面的にもよろしくない。

 ジーク様も私の心情を察してくださったのか、フレッドから遠ざけるようにエスコートしてくださるし、フレッドもマリエラが馬鹿な行動を起こさないようガッチリと捕まえているので、今のうちに店を出るのが賢明だろう。

 そう思い足早に店を出ようとするが、再びフレッドが私を止めようと腕を捕まえてくる。

「待ってアリス、まだ話が」

 あぁーもう、しつこい!

 フレッドとマリエラの事で私の怒りは爆発寸前だというのに、この上まだ行く手を遮ろうとしてくる。

 私は怒り任せに強引にフレッドの腕を振りほどくと……


「いい加減にしてください! 私の方はお話することなんてありません!! 行きましょジーク様」

「だから待てって、俺の言うことが……」

 怒りのまま吐き捨てて、何も考えないままジーク様の手を取り立ち去ろうとするが、フレッドが再び強引に引き留めようと私の逆の腕に手を伸ばしてくる。しかし……

「いい加減にしたらどうだ。アリスが嫌がっているのがわからないのか?」

 再び掴まれそうになった私を自分の胸元へと引き寄せ、力強い腕の中にすっぽりと抱え込まれる形で収納されてしまう。お蔭で怒りの気分はすっかりと消え失せ、逆に恥ずかしさの方が込み上げてくる。

 キャーー何これ!! 恥ずかしいけど抜け出せないぃぃぃ!!


「お、お前ぇ何してるんだ!!」

 それ私も聞きたい!

 すっぽりと収納されてしまった私は逃げることも出来ず、フレッドはなぜか怒りが爆発中。

 店内からは女性のキャーキャーという黄色い声援が送られてくるわ、ジーク様の対応にこれまた黄色い声援が送られてくるわで、気分はまるで見世物小屋のワンシーン。

 出来る事なら私もそちらに入って同じようにキャーキャー言いたい気分だが、残念な事に今の私は当事者。

 もしかしてジーク様ってユミナちゃんから変な知識を植えつけられてないよね!?


「離れろ! 今すぐアリスから離れろ!」

 一人騒ぐフレッド様。だけどちらっと見えた景色には、怒り心頭のフレッドを見捨てて出ていくマリエラの姿。

 って、この状況でフレッドを見捨てていく!?

 流石にこの状況にはフレッドに同情するが、この原因をつくったのもまたフレッド自身。ここは自業自得と諦めてもらおう。


「オイ、いいのか? パートナーが行っちまうぞ?」

「えっ?」

 ジーク様の言葉でようやく事態を把握するフレッド。

 恐らくジーク様が私を庇ったことで、自分を完全に無視されたとでも思ったのだろう。

 プライドの高いご令嬢ほど、自分が無視されることを激しく嫌うというし、無視された自分をいつまでも人前で晒すことも許せない。せめて後ろからおいかけてくるだろうフレッドに冷たく当たることで、少しでも自分の気持ちを晴らしたいといったところか。

 マリエラからすれば平民の私より自分の方がいいぞと、ジーク様にアピールしたかったのだろうが、生憎彼女が行った行動こそジーク様がもっとも嫌うご令嬢そのもの。婚約者が他の女性に必死になっていたのには少々同情するが、こちらとしてはいい迷惑なので、しっかり繋ぎとめておきなさいよと文句をいいたい。

 それにしてもあの二人はお互い婚約者同士だというに、互いの目の前で別の異性に声をかけるなど一体何を考えているのだろうか。

 二人の婚約は男爵家の金銭問題だと聞いているので、もしかするとお互いあまりいい関係ではないのかもしれない。まぁ、貴族や商家の中ではよくある話だし、私としては二人がどうなろうと関係ないので気にもならないのだが。


「大丈夫かアリス?」

 慌てて出ていくフレッドを見送りながら私はようやくジーク様から解放される。

「あ、はい。そのすみませんでした」

「アリスは悪くないだろ?」

「それはそうなんですが、ジーク様に不快な思いまでさせちゃって」

「そうか? 案外俺は楽しかったけどな」

 そういいながらハハハと笑うジーク様。

 その笑いが本当の楽しかったなのか、私を気遣ってのことかはわからないが、この言葉で私は随分救われた気持ちになってしまう。

「それじゃいこうか、そろそろ馬車も戻って来ているころだ」

「はい」

 さり気なく出される手に、自然と伸びてしまう私の手。

 出かけるときはあんなにカチカチだったというのにフレッドとの一件のお蔭か、随分とジーク様を近くに感じてしまう。やがて私達を乗せた馬車はお店が並ぶエリアを抜け、最後の目的地でもある公園へと差し掛かる。


「そういえばアリス、この国の王都が別名なんと言われているか知っているか?」

「華の都、ですよね?」

 地方に住んでいた私でもよく耳にすることば。

「それじゃどうして華の都と呼ばれるようになったかは?」

「どうして、ですか? うーん、やっぱり王都の街の華やかさから来たとかじゃないんですか?」

 このレガリアの王都は大陸随一の大きさだと言われているし、貿易が盛んなことから多くの人々が行き交う街だとも言われている。そんな規模の街なのだから、その華やかさは地方の田舎とは比べ物にならないだろう。


「残念、ハズレだ。これがレガリアの王都が華の都と言われる由来だよ」

 そう言ってジーク様は到着したばかりの馬車の扉を開かれると、目の前に飛び込んでくるのは一面に広がった花の絨毯。

「うわぁ、ここが花の公園!?」

 ジーク様にエスコートしてもらいながら馬車から降りると、そこには壮大に広がる花畑と木々が生い茂る人工的な森。どうやらいくつかのエリアに分かれているようで、それぞれ草木の壁で仕切られており、椅子やちょっとしたランチを楽しめるようなガゼボまで備え付けられている。

「すごい、すごい、すごい!」

「どうだ、気に入って貰えたか?」

「はい、こんな素敵な公園を見るのは初めてです!!」

「この公園は国が管理しているんだが、誰にでも気軽に利用出来るよう色々工夫されていてな、祭りの時なんていろんな出店が出て多くの人たちで賑わうんだ」

 なんでもこの国の代々の国王様達が、国民たちにも安らぎの場をというお考えで、こういった公園を王都のあちらこちらに作られて来たのだという。


「だからこの王都は華の都と言われているんですね、全然知りませんでした」

 早速近くの花壇に植えられた花を手に、軽く香りを楽しむ。

 今はお花達にとってもいい季節だから元気に育っているのだろう、見渡す限りの花や緑で実家の風景を思い出してしまう。

「友人から聞いた話だが、平民街の東と西にある公園はここよりも大きくて、花の種類なんかもいっぱいあるらしい」

「ここよりも大きいんですか!?」

「まぁ俺は行ったことがないんだがな」

 私の余りの喜びようにジーク様が楽しそうに笑ってくれる。

 見た感じこの公園も結構な広さがあるようだが、ここよりも大きな公園だとちょっと想像もつかない。恐らく利用する人数によってその大きさが変えられているのだろうが、これらのすべてを無料で開放し、国が手入れからすべて管理しているとなると、相当国民想いの王様なのだろう。

 管理するということは国は働く場所を提供するのであって、憩いの場と働きの場を同時に用意していることとなる。


「いい王様なんですね」

「あぁ、父上も尊敬しているとおっしゃっていた」

 私が生まれてから戦争らしい戦争は起こっていないし、積極的に他国との交易もされていると言うので、国は長年平和路線を歩んでいるのだろう。そうでなければこれほど人々が笑えてないし、国もここまで発展することがなかったはずだ。

 まぁ私程度がお会いできるような方ではないので、心の中からお礼だけを言わせていただこう。


「このお花可愛いですね。あ、この白いお花も小さくてかわいい」

 見る物見る物すべて可愛い。先ほどのアクセサリーも素敵だったけれど、やっぱり生命力に溢れている姿っていいものね。フィーとか今頃喜んでいるんじゃないかしら。

「ははは、そんなに喜んでもらえたら連れてきた甲斐があるってもんだ。よかったら今度は別の公園を案内するよ」

「いいんですか!! 約束ですよ!」

「ははは、あぁ約束だ」

 こうして初めての王都散策を終えるのだが、始終笑っていた私はこの時芽生えた違う感情に全く気付けなかった。






 その日の夜……

「ほぉ、あのジークがか」

「えぇ、アリスちゃんをぎゅっと抱きしめちゃって」

「監視の者によれば、次の約束まで決めておられたのだとか」

「あのジークがのぉ、随分成長したようで安心したわ。ローレンツ、例の店の方早急に進めろ」

「畏まりました」

「ふふふ、益々二人から目を離せないわね」

 なんてことが公爵家の一室であったとかなかったとか。

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