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華都のローズマリー  作者: みるくてぃー
序章 物語の始まりは唐突に
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第13話 初デートは波乱万丈?(前編)

 始終会話が楽しかった移動もようやく目的地に着き、馬車は一旦私とジーク様を降ろしその姿を消す。

 聞けば私たちが買い物している間周りを一周し、頃合いを見て再び戻って来て下さるとの事だった。


「うわぁ可愛い。レターセットってこんなにあるんだ」

 貴族御用達の高級文具店。多種多様に並べられた実務的な文具に、ご令嬢たちが好む可愛い文具セット、その中でも特にスペースが広く取られたそこに、私の目的でもあるレターセットが所狭しと置かれていた。


「俺やユミナはあまり手紙を書かないが、パーティーや茶会の招待状を書くのに使われているらしい」

「そうなんですか?」

「ほらレターセットの中に招待用のカードが入っているだろ? よくは知らないが、ご令嬢たちの間ではこのカードを集めるのが流行っているらしい」

 聞けばどこそこのお家から招待されただとか、友達同士で可愛い招待状を交換したりだとか、そういったカードを集めるのがご令嬢方の中で密かなブームなんだとか。

「ホントだ、でもカードは要らないのよね」

 私が欲しいのはあくまでも封筒と手紙を書ける便せんだけ。レターセットとなっているからには一式全部なんだろうが、紙って意外と高いらしくて、実家の騎士爵家では父達が使っているものしか目にすることがなかった。

 まぁ、こちらに来てからは教育の一環として、経理やら経営やらでやたらと書き物が多くなったのではあるが。


「あれ? 値段が書いてない」

 幾らなんだろうと思い値札を探すも、どの商品にもお金を表す数字が書かれていない。

 確かローレンツさんに教わった話だと銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚、そして金貨1000枚で白金貨1枚だったかしら? 

 一番価値のある白金貨は商会同士の取引を想定されたものらしく、私たちのような買い物では使われることがないので、恐らく1セット金貨1枚もしないとは思うのだが……。

 私って金貨1枚がどれほどの価値なのかもわかってないのよね。


 値札がついていない事をキョロキョロ不思議がっていると、『この辺りの店には値札がついていないんだ』とジーク様が教えてくれる。

「そうなんですか?」

「一応この辺りの店は全部貴族御用達だから、買う時に店のスタッフが教えてくれる仕組みになっているんだよ」

 ジーク様の話によると貴族特有の見栄というのがあり、安いのを買えばあの家は貧乏と囁かれ、高いのを買えば無理に背伸びをしていると揶揄されてしまう。そういった事を防ぐためにすべての商品には値段が書かれていないんだとか。

 まぁレストランなんかの飲食は、食べてしまった後に『払えない』じゃ困るから、値段はメニューにかかれているらしいが、こういった物品は支払う男性がこっそり尋ねたり、スタッフに予めこちらの懐事情を話して、さり気なく女性に予算内の商品を勧めてもらったりと、いろいろ利用されているらしい。


 なるほどね、貴族には貴族なりの苦労があるという訳ね。


「それでこれがいいのか?」

「そうなんですけど、やっぱり値段がわからないと不安で」

 貧乏性と言うなかれ、こちらは物の価値すらわからぬ一文無し。買ってもらう身からすれば、やはりそこはどうしても引け目を感じてしまう。

 そんな私にジーク様はにっこりと笑い「すまない、こちらを貰えるか」と、何とも紳士的な対応。思わず何これ、カッコいい! と感じてしまった私を責めないで貰いたい。


「いいんですか?」

「気にしなくていいって。母上も言っていたが、もっとねだってくれてもいいぐらいだ」

「いや、でもお世話になっている身としては……」

 やっぱり気が引けてしまうというのが一般的な気持ちではないだろうか。


「ありがとうございます」

 丁寧に包装していただいたレターセットを受け取り、改めてお礼の言葉を口にする。

「ふふ、相変わらず律儀だな。俺の知ってるご令嬢なんて買って貰えて当然な感じだったぞ。こっちはなけなしの小遣いだっていうのにな」

「ふふふ、ジーク様もお小遣いだったんですね、ちょっとだけ新鮮です」

 今は騎士団から給金を貰っているそうだが、それまではお小遣い制を取り入れられていたのだという。

 公爵様曰く、幼少の時からお金の有り難さを学ばせる教育の一環だったらしい。

 そういう教育が出来るというのが公爵様とフローラ様のすごいところだと感心してしまう。


「さて他に欲しいものとかはないか? 母上からアリスのためにとお金も預かっているし、俺もいくらかは持ち合わせもあるから、大体のものは揃えられると思うぞ」

「欲しいものですか?」

 そういえばフローラ様もそんな事をおっしゃっていたっけ。特にこれと言って欲しいものはないけど、折角街にこれたのだから色々見て回りたいという気持ちも湧いてくる。

 ジーク様に連れられお店の外へ出てから周りをグルリと一周。お迎えの馬車はまだ来ていないようなので、恐らく事前に時間を空けてという話にでもなっているのだろう。そうなるとやはり色々みて回りたくなるのが女性心というもの。

 すると私の目に一軒の可愛いお店が映る。


「あれは何ですか?」

「ん? あぁあれはアクセサリー屋だよ。この辺では珍しい店だが、並んでいる商品が全て手作りだとかで、可愛くて安いからと何度かユミナに連れていかれてな」

 や、安くて可愛いアクセサリー!?

 なんと女性心に響く言葉だろうか。はっきり言うが、女性はバーゲンや安売りという言葉には目がない。さらにそこへ可愛いと聞けば、目を輝かせてしまうのはある意味仕方がないのではないか。


「クスクス、あそこに行くか?」

「は、はい。行ってみたいです!」

 思わず欲望がそのまま出てしまうが、正直ワクワクな気持ちが抑えられない。

 まぁ、買わなくともみているだけでも楽しいし、お迎えの馬車が戻ってくるまでの時間潰しと考えれば、多少罪悪感も薄れてしまう。

 ともかく早く行きたい!

 逸る気持ちを必死に抑えながらやがて私とジーク様は目的のお店へとたどり着く。

 店内は予想通り女性やカップルが多く、あちらこちらから可愛いだの、これ買ってだの楽しそうな言葉で溢れかえっていた。


「すごいすごい! どれも可愛い! この髪飾りなんかエリスに似合いそう、あ、こっちはユミナちゃんの髪に合いそうな髪留め、これなんてフィーの服に着けてあげれば可愛いだろうなぁ」

 見る物すべてが女性心を揺さぶり、私は一人で大興奮。お店自体の可愛さもそうだが、店内のレイアウトから綺麗に並べられた手作りアクセサリーに、まるで前世に逆戻りしたかのような感覚を味わってしまう。

「ふふ、自分のためじゃないんだな」

「えー、だってエリスやユミナちゃんに似合うと思いませんか?」

「まぁそうかも知れないが、自分が欲しいのを選んでもいいんだぞ」

「私のですか?」

 うーん、欲しいか欲しくないといえばやぱり欲しいのだが、最近の私ってメイドさん達に髪をセットしてもらっているから、髪飾りとかも全部お借りしているのよね。

 一方エリスとユミナちゃんは二人の希望で私が整えているので、三つ編みにしたり結ってみたりと、この世界では珍しい編み方をしているから、あまり髪飾りを使ったことがないのだ。

 公爵家にあるアクセサリーってどちらかと言うと、ドレスやパーティー用に用意されたものだから、あまり可愛いってデザインの物がすくないのよね。だから多分ユミナちゃんもこのお店を気に入っているんだと思う。


「だったらこれなんてどうだ?」

「イヤリングですか? あ、可愛い」

 私の髪色に合わせてくださったのか、シルバーで三日月の形をした可愛らしいイヤリング。月が欠けた部分には小さな青色の石がぶら下がり、三日月の部分には細かな装飾まで施されている。

「どうかな?」

「あ、はい。すごく可愛いです。はい」

 鏡の前で男性が私の耳元にそっとイヤリングを持ってくる光景に、思わず真っ赤になる私をゆるしてもらいたい。

 そんな私の様子に気づいたのか、慌ててジーク様が。

「あ、す、すまない。いつもユミナのやつに同じことを強制されてて、ついいつもの調子で……」

 思わず当時のユミナちゃんの様子を思い浮かべてクスリと笑う。

 ユミナちゃんの事だから「お兄様はもっと女性への気遣いが必要ですわ。こういう時はそっと鏡の前で女性の耳元に持ってくるものなんです!」とかいって、ジーク様をさぞ困らせていたことだろう。

 そう思うとついつい笑わずにいられない。


「ちょっと驚きましたが悪い気はしませんでしたよ。ふふふ」

「いや、まぁ……その、すまない。」

 結局ジーク様はお詫びとして選んで下さったイヤリングと、私が最初に見ていた三人へのアクセサリーをお土産に買って下さった。

 そしてそろそろ時間も潰せたかな、と思い始めた時、私の前に一人の男性が立ちふさがるのだった。

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