騎士団長の妹は勘違いに気付く
第6部分としてUPしたものを削除し、こちらに差し替えました。
読まれた方、大変申し訳ありませんでした。
【人物紹介】
★アマリア
アマリア・イランドローネ(35)
レイヴェンタール公国第22騎士団団長。
一応ヒロイン。
★ヨルナス
ヨルナス・サンダース(30)
レイヴェンタール公国第3魔導師団員。
似非ショタヒーロー。
★メイベル
メイベル・サンダース(40)
レイヴェンタール公国第9騎士団団長。
ヨルナスの兄。アマリアとは同期生。
★ナタリア
ナタリア・イランドローネ(27)
アマリアの妹。
独身文官シスコン。
★ハドリー
ハドリー・ミクライエン(40)
レイヴェンタール公国第3魔導師団長。
アマリアと同期生。ヨルナスは部下。
遅れ馳せながらハドリーの見合いが行われる筈の、ホテル敷地内ティーサロンに辿り着いたナタリア。
メイベルから事情を聞いている第3魔導師団長ハドリー・ミクライエンは、そこで優雅に茶を嗜んでいた。
メイベルは(なんだかよくわからないが)ヨルナスがアマリアと本気で結婚したいと知り、『それならば』と密かにサポートに回ることにした。
表立ってサポートするには、メイベルはヨルナスに嫌われすぎている。
表立って出来ることで最も重要というか、確実にやらなければならないことは一つだけ。
そう、見合いの約束を取り付けることである。
もうハドリーの見合いはどうでもいいので、メイベルはハドリーの件を見合いの圧として使うことにした。
アマリアの予定を確認し、確実に空いている時の直前に見合いを持って行き、『ハドリーの予定』を持ち出して選択の余地をなくす。
冷静に考えればハドリーは既に関係ない為、彼の予定などアマリアは気にしなくて良い筈である。
もしアマリアが釣書を見るのすら拒んだ場合でもハドリーの釣書を渡し見合い相手を彼女に任すことには保険としての意味があった。
それを名目としてアマリアを連れ出すことが可能になるし、彼女に紹介の意思がなくとも『一応ふたりが見合いしたってことにしとけ』とかなんとか言ってお茶をする手筈を整え、身内であるヨルナスを連れてくることが自然にできる。
結果ヨルナスとの見合いに乗り気で、しかもハドリーの見合いのことをスッカリ忘れたアマリアだが、元々ハドリーも結婚の意思は特にない。
ヨルナスがアマリアの相手として立候補した次の日、ハドリーの元へと訪れたメイベルによって、それは確認済みだ。仮に女性が来てしまったとしても、失礼のないようにもてなした後で丁重にお断りするつもりでいる。
★★★
「ご機嫌よう、ハドリー・ミクライエン様」
ナタリアはハドリーを確認すると、はやる気持ちを抑え、淑女らしい嫋やかな歩みで近付いて、スカートを摘んで軽くお辞儀をした。
「──貴女は……」
メイベルと違って真面目なハドリーがこのアホみたいな計画に協力したのは、ひとえに部下であるヨルナスと友人アマリアの為に過ぎない。
だが、来た相手に流石のハドリーも困惑を隠せなかった。
イランドローネ姉妹は姉妹とわかるくらいにはよく似ている。ナタリアが名乗る前に、すぐに彼女がアマリアの妹であることは察せられた。
「私、アマリアの妹……ナタリア・イランドローネでございます」
驚き、戸惑いを感じてはいるが、イランドローネ姉妹の仲の良さは有名である。
そしてふたりの『美貌の嫁き遅れ姉妹』などという揶揄も。
(……変な男と見合いさせるよりは、ということなのだろうか)
しかしその目的がよくわからない。
真面目なハドリーは悩んでしまった。
これが、彼女にとって『妹に見合いをさせる為の見合い』なのか、それとも『ハドリーならば大事な妹を任せられる』といった、信頼からの見合いなのか。
前者ならばいいが、後者ならば前向きに検討しなければならない。
いずれにしても女性が現れた場合、それなりにもてなす気ではいたものの……妹大好きシスコンのアマリアがそこまで考えていたならば、きちんと対応しなければ不義理というもの……
(……とりあえず、様子を窺うしかない)
「──ハドリー・ミクライエンです。 この度は御足労頂き、ありがとうございます。 レディ・ナタリア」
よくわからないまま、とりあえず笑顔で挨拶を返し、紳士的に振る舞うことにした。
──しかし次のやりとりが、より現場を混乱させることとなる。
席に座るよう促されるが、立ったままナタリアは深く頭を下げる。
「申し訳ございません、ミクライエン様……私が参りましたことで、さぞかし驚かれたことと思います」
ナタリアはまず謝罪から述べると決めていた。当然ながら、姉の代わりに自分が来たことに対して。
ハドリーはそれに一瞬瞠目するも、スッと立ち上がってナタリアの為に椅子を引いた。
「どうぞ気楽になさってください。 仰る通りアマリアの紹介する女性が、貴女だとは思いもよりませんでしたが……とても光栄ですよ」
「え……」
『アマリアの紹介する女性』──
その言葉に、ナタリアは自身の勘違いに気付いた。
……ただし、それもまた更なる勘違いであることにはまだ、気付いてはいないのだが。
(……はぁあぁぁぁぁぁ!!! お姉様はお見合い相手ではなく、仲介役だったのね!? えっ?! でも本来のお相手は!?)
みっともなく取り乱すわけにはいかないので淑女面をしてはいるが、ナタリアの背中には今、汗がビッシリである。
姉に恥をかかすわけにはいかない。
どうやってこの場を乗り切るべきか──
ほんの数秒に、頭をフル回転させた結果。
(……とりあえず、様子を窺うしかない)
図らずしも、ハドリーと同じ結論に達することになった。