表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

騎士団長はスパダリ

 

()()は国立学園の生徒だろう?」

「──は?」


 隊服を着た男は、さも嘆かわしいといった様子でふたりにそう言った。


 なんとヨルナス(30)まで学生呼ばわりされている。確かに学園は研究員になれば、通常卒業を迎える17よりも更に6年間学生として残ることができるし、制服着用の義務はない。

 ヨルナスは異常な程のベビーフェイス。誤解されても仕方ないと言えば、まあ仕方ないかもしれないが……彼は一応、三十路である。

 しかもエルシィと同級生くらいの感じで見られているようだ。制服も着ていないのに。


「こんな時間にこんなところで、なにをしているんだね?」

「ええと……」

「話せないようなことか? ふたりともこっちに来なさい。 話はそこで聞こう」


 威圧的に質問され、しどろもどろになるエルシィに男の手が伸びる。

 ヨルナスはすかさず前に出た。


(エルシィさんは補導だと思っているようだが……コイツは騎士ではないな)


 値踏みし、舐め回すようないやらしい視線。

 こういうことに慣れているヨルナスは、それがすぐ理解出来た。



 こういう手合いの目的の一番は金、次に肉体。


 裕福そうな子供の火遊びや逢引を狙って、補導するていで連れ出して脅し、金をせしめる……三流の悪党の考えそうなことだ。


 そもそも騎士なら精々口頭注意くらいしかしないし、なんらかの理由で学生証を確認する際には、自分の所属と名前を明らかにしてから、という規則がある。

 だから確実に男は、少なくとも()()()()()()()()()()


 おそらくは学生証で身分を確認し、引っ張れるだけ金を引っ張る気なのだろう。

 親に金と権力があれば、後暗い行為を『親に黙っている代わりに』と金を要求し、そうでない場合は小金をせしめ、気が済むまで乱暴する……というのがこの手の輩の常套手段である。



 レイヴェンタールの貞操観念はそこまで厳しくはない。だがその反面、強姦を含む性的なことの強要にはとても厳しい。


 大抵の場合、実刑。

 具体的にいうと強姦の場合、局部の切除及びそれに準じた刑が執行される。


 法的な罰則の厳しさから、この国の性犯罪の検挙率は周辺諸国に比べてかなり少ない。


 ただ被害が発生しないとどうにもならない。

 他国より少ないというだけで、性犯罪が無くならない理由のひとつがそれだ。

 結局被害者が訴えでることを躊躇する事例は多く、実際の被害者も気が弱そうな子が多い。検挙率と犯罪率は一致しないと予測できる。


 尚、この国に刑事事件の弁護士はいない。

 事件が起こり発覚した場合、加害者並びに場合によっては被疑者、被害者などに自白剤が投与される。この自白剤で死ぬことはまずないが、抜けるのに時間がかかるので一週間ほど拘留を余儀なくされる。

 とても乱暴ではあるが、非常に合理的。



 だからといって流石に『コイツ怪しい』だけでは、自白剤は飲ませられないし、捕縛もできない。

 それが問題である。




 ──そんなわけで、『コイツは黒だ』と思ったヨルナスは、事件を起こして捕縛しようと思っている。


 男の隊服がレプリカならば、もうのしてしまって捕縛しても構わないのだが……問題は隊服が本物のようであること。

 隊服は国からの支給で、替えは申請。除隊の際は返す決まりになっているのだ。


 騎士であるなら迂闊に捕縛はできない。

 騎士ではないなら流出経路も気になるし、ふたりである自分達に声を掛けてきた輩である。不埒な行為に及ぶとしたら必ず仲間がいる筈だ。どうせなら一網打尽にしたい。


 だが、それにはエルシィが邪魔なのだ。

 危険な目には遭わせたくないし、足でまといにもなりかねない。




(仕方ないな……)


 ヨルナスは非常に不本意だが、あまり使いたくない手段を使うことにした。


「あ……あの、」


 まず──ヨルナスは()()()()()歩み出て、男に不安気な声で訴える。


()()の落としたものを一緒に探してくれてただけなんです」

「だからそういう話は向こうで聞くと……」

「ええ、でも」


 やたらと違うところに連れ出したがる男に、やはりコイツは黒だと確信したヨルナス。

 次に──その苛立った様子を見ながら、怯えたように男の隊服の袖を小さく摘んだ。


「寮なんで門限が厳しくて……その、僕だけじゃ、ダメ……ですか?」


 うるうるした瞳と、僅かに震える細く白い指が庇護欲をそそる。

 男の喉元が上下したのを見て、ヨルナスは密かにほくそ笑んだ。



 昔からこの見た目になにかと助けられてきたヨルナスは、常日頃からお肌のお手入れと、あざとい仕草の研究を怠ったことはない。

 顔立ちはそっくりだが、野生児の(メイベル)には決して真似することはできないこの技を、ヨルナスは重宝している。


 ──ただ、進んではやりたくない技でもある。



「……ふん、まあいいだろう」


 どうやら男はお気に召したらしい。

 それは想定の範囲だが、内心ヨルナスはホッとしていた。


 自分のことでなく、エルシィのことに。


(フードと眼鏡のおかげで助かったな……)


 エルシィの顔は可愛らしい。

 女の子だとわからなくても、顔をしっかり見られていたら危ないところだった。


()()、君は先に帰って」

「あ、あの……ヨルナスさん?」


 目配せをしつつ、エルシィに帰るように促す。


「寮長には僕が()()()()()()()()()()()()


 念の為、エルシィには手を出しにくくなるような、相手に有利な条件を匂わせておく。


「……お待たせしました」

「ふふ、君はなかなか機転が利くな。 これでゆっくり話を聞ける。 じゃ、君は気を付けて帰りなさい」


 全てヨルナスの目論見通りとも知らずに、男は下卑た笑いを浮かべながら、儚げな美少年(に見える30男)の背中に手を這わせるように押した。


 おそらくこれから始まる予定の、めくるめくR18の世界を想像しているのであろう。


 隣でヨルナスも、これから始まる予定のR18の世界を想像している。

 勿論彼のR18の世界は、主に暴力表現の方である。当然官能などない。




 ちなみにどちらも描かれることはない。

 これは作者のアカウントの危険意識からではなく……


 アマリアとキグナスが現場に駆け付けてしまったからだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] めくるめくR18の世界!!笑!! そしてタイトル通りのスパダリの登場!! ひゃっはーー!!アガるぜ!!
[良い点] ああ……助けにきてしまったか。 この不埒な輩が、どのような『残酷表現規制的モザイク処理』な目に遭うか、楽しみだったのになあ……。(描かへんて言うてますやん) さーて、ここからどうなるのか…
[一言] ああ!美少年(中年)が黒く笑みながら、いけない子をお仕置きと称して、アチラコチラ足蹴にし、ミンチ肉にする過程が!駆けつけられたのでお預けとなりました(^o^)/
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ