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騎士団長は変身する

 

 さて──買い物に出掛ける為に、自室のクロゼットを開けたアマリアだが……彼女の私服は殆ど男性の着るようなものと、地味なロングスカートのみである。


 ちなみに見合い時のワンピースドレスは、よそいき用。他のよそいき用のワンピースは生地の質はいいが地味な色合いのシンプルなものばかりで、あの日ナタリアに助けを求めたのは小物を借りることが目的でもあった。


 まさか店のお姉さんにグイグイ勧められて購入した、セクシードレスを着る羽目になるとも思わずに。



 この国にも夜会はあるが、立食スタイルの平服パーティが殆ど。

 コルセットや分厚いパニエが必要な仰々しいドレスは特別な式典の時ぐらいしか着ない。代わりにタウンハウスを持つような良家のご令嬢は、よそいきに華やかなワンピースドレスをそれなりに持っているが、普段着ていても別に浮くことは無い。


 アマリアはパーティのような集まりの場所では、大概男装をしていた。

 その方がウケがいいからである。



(デートが今日でなくて良かった……着ていく服がない)


 むしろ服を買いに行く服すら、大した選択肢は存在していない。一言で言うと、『無難』に尽きる。


 それを思うと、ややセクシー過ぎてはいたがグイグイきた店員のお勧めであり、姉の魅力を知るシスコン妹のセレクトでもある見合い時のワンピースドレスは、確かに彼女に似合ってはいた。




 初めての異性とのお付き合いに浮かれているアマリアだが、だからといって『これから女子力を上げるぞ♡』みたいな考えは特にないので、さっさと着替えを終えた。

 むしろそんな考えなど、思い付いてすらいない。

 公式の場や特別な場合、それらしく振る舞えるスキルはあるが、普段のアマリアの女子力は滅法低かった。


 合理性と機動力しか考えずに、いつも通りのすっぴんに男装で出掛ける。勿論、足は馬車ではなく馬である。

 新陳代謝がよく肌ツヤはいいのが救い。


 せめてスカートにすればいいのだが、はなから馬に乗る気でいた彼女の中にその選択肢はなかった。




 イランドローネ家のいきつけであり、人気の高いデザイナーでもあるジョルダン夫人の経営するブティックに行くと、彼女の入店に店内は俄に色めき立つ。


「まあ! 騎士団長様、ようこそいらっしゃいました!」

「本日はどのような物をご所望でらっしゃいますか?」

「ええと……」


 少し引き気味のアマリアの前に、女主人でデザイナーのジョルダン夫人が恭しく現れた。


(これで買い物はスムーズに行えそうだ)


「ようこそ、アマリア様」

「やあ、ジョルダン夫人。 よそいきのワンピースドレスを数着頂きたいんだが。 そこまでかしこまらない感じで、年相応に……その、可愛らしいやつを」


『可愛いモノ』を遠ざけていたアマリアは、『可愛いモノ』を身に付けるのに抵抗というか、とても照れがある。

 だからせっかくのよそいきすら、地味で無難なものばかりになってしまったのだ。


 この店は、件のセクシードレスを買わされた店でもある。

 店員が趣味を押し付けてきたのもあるが、若い女性店員に『可愛いのが欲しい♡』が恥ずかしくて言えなかったアマリア自身にも問題があった。


「あら……っ! あらあらまあ……そうですの! それは力が入りますわ! もうアマリア様ったら今までお勧めしても試着すらしてくださらないんですもの!」

「試着したら買わないと申し訳ない気がして……」

「試着は似合うものを見つける為でしてよ! 今日は沢山着ていただきますからね!」


 ジョルダン夫人の言う通り、アマリアは滅茶苦茶試着をさせられた。ちょっと疲れはしたが、それよりも可愛いモノを存分に着れ、それが思いの外似合うことに感激した。


 夫人の選んだドレスは少女趣味なアマリアを満足させる可愛いらしいものでありながらも、要所にボディラインを見せたり大胆な開口部のある、清楚でありながら大人の色気をほどよく醸すもの。それらはいずれも彼女によく似合っていた。




 今までアマリアは一人で自分の服を買いに行ったことがない。

 大概妹がついてきたので、自分の好む『可愛いモノ』は「趣味じゃない」とつい嘯いてしまっていた。


 メンズライクな服は売っていないので、アウターやボトムはオーダーかセミオーダーばかりだが、ナタリアが直接希望を述べたり、デザインをして注文したり、男性用をお直ししたりしながら購入し、プレゼントしてくれるのが常である。


 何度断っても寄越すので、アマリアはその代わりにナタリアへ服飾雑貨をプレゼントするという構図が出来上がってしまっていた。



 そのために起こった『まあ……これが、私?!』現象に、アマリアは驚きを禁じ得ない。



「以前ナタリアの服を買った時に、似た服を試しに試着したことがあるが……物凄く似合っていなかったのだが……」


 思わず口に出す黒歴史。

 アマリアが試着に積極的でないのは、その出来事が尾を引いているからでもあった。


「それは体型の問題ですわ、アマリア様。 ナタリア様とアマリア様のお顔は似てらっしゃいますが、小柄で華奢なナタリア様と、高身長でグラマラスなアマリア様では当然似合う形や柄が違います」


 当時のドレスと今着ているドレスのぱっと見は確かに似ているが、フリルの位置やリボンの大きさや位置、柄の大きさに違いがあるようだ。

『ナタリアに似合って自分には似合わない』と思い込んでいたが、既製品(プレタ)でこれだけ似合うのならば、夫人の言う通りだったのだろう。




「よくお似合いですわ騎士団長様!」

「えへへ、そうかな~」


 褒め言葉に満更でもなくへロリとはにかむ彼女に、従業員達はきゃあきゃあと湧き上がる。


 ギャップ萌えである。

 お前ら仕事しろ。


「……アマリア様、どうせなら今日は一式着て過ごされてはいかがです?」

「えっ」

「従業員達がソワソワして落ち着かないので……お化粧と髪もさせていただけません? 小物はサービス致しますから」


 夫人にしてみれば、自分のドレスで煌びやかに変わったアマリアに街を歩かせるのは非常に有益である。

 なにより彼女自身、完璧に整えたアマリアを見てみたかった、というのもある。


 ちょっと躊躇いを見せるアマリアだったが、ジョルダン夫人の『これでは仕事になりません』という方便に折れた。




 ──しかし本当の夫人の目的は別にあった。

 ヨルナスのことなど知らない夫人は、自分の息子であるキグナスをアマリアに近づけるチャンスだ、と思いついたのだ。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] ここにヤンデレ投入だな! 混乱するぞ〜(ワクワク)
[一言] 夫人んんんんんんんwwwww それだけはやめておきなはれ!www 息子さんが変死体で発見されても知りませぬぞ!www
[一言] 更に混乱の要素が。 さすがに一筋縄ではいきませんな。 面白いです。
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