3-4話 命響式
「せ゛ぇ ん゛は゛ぁ ~ い゛! せ゛ぇ ん゛は゛ぁ ~ い゛!!」
近づくにつれ、女性の泣き声がありありと聞こえる。
そして、着地してすぐにメトルは女性に近づくと、思いっきり頭をぶった。
「いっだぁ!!」
▽▽▽
特徴的な黒い三角帽子は凹み、女性は殴られた箇所を押さえ、さらに涙を流す。その間に、マシロはイズモに駆け寄り、泣きながら抱きつく。
「イズモ!」
「マシロ! 大丈夫だった? ごめんね遅れちゃって」
誰にはばかることなく号泣するマシロの頭を撫で、落ち着かせる。マシロは落ち着くと、抱きついてしまっていることに気づき、顔を赤くしてイズモの胸元から離れる。そんな甘くも微笑ましい雰囲気を醸し出す2人の横では、メトルと女性が騒がしく言い争っていた。
「なにずるんですがぁ!? この鬼畜! あくまぁ! 」
「黙れシオン。いい歳した大人が泣き喚くな」
「まだ18歳ですよ!?」
「18歳でも十分大人だ。それに、お前も教師なのなら、子供達の手本となるよう心がけろ」
冷淡な口調でメトルは詰める。
「まるで私が手本じゃないみたいな言い方ですね!?」
「反面教師としては優秀なんだがな」
「酷いですよ先輩!? 私は素で優秀ですよ!」
怒りからか、女性は涙が引っ込み、怒れる猫のように騒ぎ立てる。
「うるさい。そもそも、なんで泣いてたんだ? お前、保護してただけだろう?」
「ふんだ! 先輩なんかに教えませんよーっだ!!」
女性は侮蔑するように舌を出してメトルの質問を無視するが、それが癇に障ったのか、メトルにすぐさま拳骨を二発食らわされる。
「……その、大丈夫ですか」
頭をおさえて地面を転げ回るようにして悶絶する女性にをイズモは心配するが、女性からは反応がない。しかし、そんな事には目もくれず、メトルはイズモとマシロに話しかける。
「恥ずかしい所を見せてしまったね。彼女は、シオン・メディア。オレア・コラン学園の新任魔術講師だ。私にぶたれるのは日常茶飯事だから、気にしなくていい」
「いやいやいやいや、それを聞いても全然安心できないんですが……」
マシロも怯えてしまい、いつも通りイズモの後ろへと隠れる。そんなマシロにメトルは目線を移す。
「君がマシロだね? 私の連れが迷惑をかけたね」
「い、いえ! むしろ、わ、私の方が、迷惑をかけてしまって……」
マシロはイズモの陰から、ビクビクしながら答える。
「そうか。まぁ、彼女には迷惑をかけても大丈夫さ。それより、2人は命響式に来たのだろう? 教会前まで送っていこう」
「あ、その、ローリエの、カンランに続く道の辺りに送ってもらうことは出来ますか? そこで、はぐれた人がいるんです」
メトルはその要望に首を縦に振り、未だに転げ回っているシオンの元へ行くと、悪びれない態度で口を開く。
「ほら、早く立て。この2人を送り届けるぞ」
「誰のせいでっ! こんな事になってると思ってんですかっ!」
シオンは泣きながら叫ぶが、その言葉はメトルの心には響かない。
「お前が悪い。ほら、早くしろ」