3-2話 命響式
「ここ最近、《怪盗》クロックによる被害が増えていましてね。警備を厳しくしてるんです」
「か、怪盗?」
マシロは疑問を口に出す。
「ん、お嬢ちゃんは《怪盗》クロック知らないか。厄介なやつでな、転移魔法や変装魔法の使い手なのさ」
「ふーん。それで、転移魔法を使ってたあたしゃ達を疑ったってことかい」
「えぇ、その通りですご婦人。出来れば検査させて頂きたいのですが、よろしいですか?」
マギアはため息を吐きつつも、アレンの提案を受け入れる。
▽▽▽
「分かったから、早くしておくれ。今日はこの子達の晴れ舞台なんだからねぇ」
「分かりました。クラン、準備を」
隊長に呼ばれて、若い女性が前に出る。
「クランは、今年入ったばかりの新人なんですが、真偽判定が出来るんです。なので、クランの質問に答えて頂いてもよろしいですか?」
「あぁ、構わないよ。ほら、さっさとしておくれ」
「で、では!? させていただきまふ!」
クランに視線が集まる。クランは顔を真っ赤にしながらも、咳払いをして仕切り直す。
「す、すみません…… き、気を取り直して、させていただきます! えーっと、その…… 今日の体調はいかがですか!?」
「クラン、それを聞いてどうするんだ。 《怪盗》について聞きなさい……」
「うぁぁぁ!? ご、ごめんなさい!!」
クランはテンパりながら、ペコペコと謝る。
「すみません、こいつあがり症で」
「いや、いいけどさ…… 早くしておく……」
そうマギアが言おうとした時、マシロとイズモが立っている地面に紫の魔法陣が広がる。
「へ? イ、イズモ、これって……」
「転移魔法……?」
呆気にとられる2人。それとは別に、マギアとアレンの2人はすぐに状況を理解し、目の色を変える。
「敵襲だ! 総員、警戒態勢をとれ!」
声を荒らげて指示を飛ばす。マギアはイズモとマシロを掴もうとするが、その手は届かず魔法陣が起動する。
「イズモ、マシロから離れるんじゃないよ!」
せめてもの警告を最後に、2人はその場から消えた。
2人が転移した場所は変わらずローリエ中心街。オリーブへ何回か来た事があるイズモは、その場所が先程までいた場所からかなり離れていることが分かったが、周りに敵がいる訳でも、国外へ飛ばされた訳でもないので一先ず落ち着く。が、しかし。すぐ後ろにマシロがいることを確認するも、そこにマシロはいなかった。
「そんな…… 一緒の魔法陣で飛んだはずなのに……」
辺りを見回すが、人だかりの中にマシロらしき人物を見つけることは出来ない。
「マシロー! マシロー!」
大声で叫びながら探すも、お祭り騒ぎのローリエ中心街で、その声は儚くかき消される。
「どうしよう…… マギアさんの所へ戻る? いや、敵がいる可能性もある。それに、一緒の魔法陣で飛んできたってことは、俺の近くに飛ばされてる可能性が高いよね……?」
イズモは考える。近くにいる可能性は高いが、この人だかりの中見つけるのは困難。大声で叫ぶも、命響式に熱気を帯びるこの状況ではあまり効果は見込めない。そうこうしているうちに、時間はどんどんと流れる。
「人を探せる魔法も知らないし…… 」
30分ほど探すが、見つけられずに悩むイズモ。焦りや不安でいっぱいになる中、あるものが目に付く。それは、炎や水でジャグリングを行ったり、風魔法を使って空中でブレイクダンスを披露したりと、多種多様な技で人目を集める大道芸人。
「俺が見つけられなくても、マシロが俺を見つけてくれればいいのか……!」
そのことに気づいたイズモは、すぐに行動に移す。
「【生活魔法】ウォーター!」
魔法によって大きな水球を出し、その一部を鳥の形へと造形し次々に空へと飛ばす。半透明の小鳥たちが空を舞うその光景に、イズモの周りにいた人たちも思わず空を見上げ、あちこちで驚嘆の声が上がる。
「もういっちょ! 【遊戯魔法】スパーク!」
魔法を唱え、赤い火花の塊を生み出す。昨日、マシロに見せたサイズの花火では気づいてもらいにくいと考えたイズモは、得意の圧縮をして小さくし、そこに魔力を注いで大きくする。それを繰り返し、圧縮した状態で元の火花の塊のサイズにまでなった所で、空へと打ち上げる。季節外れの青空に火の花は大きな破裂音を伴い、咲き誇る。その周りを、花と戯れるかのように半透明な小鳥たちが舞い遊ぶ。いつしか道行く人は歩みを止め、ある人は少年に称賛を、ある女の子は拍手を送る。
「えっ、あっ、いやその……」
周囲の人の反応を予想しておらず、どもってしまうイズモ。しかし、同時にこれはチャンスだと気づき、緊張しながらも口を開く。
「そのっ、ひ、人を探してるんです! 俺と同じくらいの、髪が白っぽくて、フードを被った小さな女の子。人探しの魔法が使える人や、その子を見た人はいますか?」
イズモの発言に、少しどよめきたつ。少し経ってから、一人の男性が手を挙げながらイズモに近づく。
「確認したいのだが、その子の名前はマシロか?」
「は、はい! そうです!」
「ふむ。どうやら私の連れが保護した子に間違いないようだな。少年、ついてきなさい」
男性の言葉に安堵したイズモは、二つ返事で了承する。
周りに集まった人たちに一礼し、その場を離れて男性の後を追う。
「少年、名は?」
「イ、イズモです」
「そうか。私はメトル・アーサー。オレア・コラン学園で教師をやらせてもらっている」
「えっ!?」
メトルの発言に、驚きを隠せないイズモ。
「な、ならアルコを知ってますか? 今年最高学年で、弓が得意な」
「あぁ、知っている。というか、あの学園でアルコを知らん方がおかしかろう」
「アルコって有名なんですか!?」
「悪い方でな」
メトルはイズモの発言に、眉をひそめ、ため息混じりにそう付け足した。
キャラが多くなってきました。そのうちまとめを出したいです。