3-1話 命響式
学園国家オリーブは、二重丸型の島国である。近隣諸国には冒険者の国である独立国家リベルタや、【鉄壁】の異名を持つ城塞都市国家ウルツァイトがあり、それらの国との交流はとても深い。また、学園国家であるため、領地の9割は教育のために使われている。その教育水準の高さを見込まれ、各国の10~15歳の子供達は、オリーブにある世界最大最高の学園であるオレア・コラン学園へ入学することが決められている。その特異性から、全ての国と和平条約と不可侵条約を結んでいる国である。
そんな学園国家オリーブであるが、外側の丸の部分と内側の丸の部分、そして、内側の丸の内側の部分の、大きくわけて3つの部分に分けられる。外側の丸の部分は「ローリエ」と呼ばれ、市場や宿屋、貿易場など、主に観光客向けの施設が混在している。それに対し、内側の丸の部分は「カンラン」と呼ばれ、図書館やショッピングモール、魔道具屋など、学園に入学した学生たち向けの施設が多く混在する。最後に残った丸の内側、つまり領海として認められている部分であるが、この部分にオレア・コラン学園が存在している。一般の観光客はオレア・コラン学園内に入ることは出来ない。
さて、そんな学園国家オリーブのローリエの中心街。今日が命響式ということもあり、道の両端を埋め尽くすほど露天商が立ち並び、道行く人を呼び込む。子供が多いこともあり、商品は食べ物系が多いが、遊戯系のものやお杖や剣を売っている店など、様々である。通行人も一年に一度ということもあってか財布の紐が緩く、あちこちで興奮した声や笑い声が飛び交う。
そんな、喧騒冷めやらぬローリエ中心街。群衆にもまれながらも、ご多分にもれず色めき立つ少女が一人。
「イズモ、イズモっ! 凄いよ、わたあめに、チョコバナナも売ってる! こっちの世界でも売ってるんだね!」
「あぁ。昔、異世界のお菓子や食べ物を売り出した露天商がいたんだよ。それがかなり好評で、みんな真似するようになったんだ」
「そうなんだ…… あっ、あれは射的かな? 私やってみたい!」
「ちょっ、待ってよマシロ!」
少女にグイグイと手を引かれ、引きずられるようにして連れて行かれるイズモ。
「まぁ、泣き止んでくれただけマシか……」
引きずられながら、イズモはオリーブ到着直後に置きた事件を振り返る。
□□□
転移魔法によって入国した3人。しかし、転移してまもなく警備兵が押し寄せる。
「なんだいなんだい騒がしいね」
「マシロ、大丈夫だから後ろに隠れてて」
怯えるマシロを気遣い、イズモは自分の後ろに隠す。そうこうしているうちに、警備兵の中から一人が代表して前に出る。
「突然すまない。私はここの警備隊長をしている、アレンというものだ」
「ふん、そうかい。それで、その警備隊長とやらが、なんの用さ?」
転移そうそうに出鼻をくじかれ、見るからに不機嫌そうなマギア。
「ここ最近、《怪盗》クロックによる被害が増えていましてね。警備を厳しくしてるんです」
「か、怪盗?」
マシロは疑問を口に出す。
「ん、お嬢ちゃんは《怪盗》クロック知らないか。厄介なやつでな、転移魔法や変装魔法の使い手なのさ」
「ふーん。それで、転移魔法を使ってたあたしゃ達を疑ったってことかい」
「えぇ、その通りですご婦人。出来れば検査させて頂きたいのですが、よろしいですか?」
マギアはため息を吐きつつも、アレンの提案を受け入れる。