2-2話 出立
▽▽▽ 以降が、前回の続きです。
「そうだよ。どんな命符もらえるのか、楽しみでもあるけど、ちょっと怖いかな」
「んーなんだ、強い命符が欲しいか?」
「いや、うーん…… まぁ、そりゃあ……ね?」
歯切れの悪い返答を受けて、モケは吹き出して笑う。
「はははっ! お前は妙に賢い時もあるが、やっぱりまだまだ子供だなぁ」
「なっ! つ、強い方がそりゃあ良いじゃんか! モケさんだってそう思うでしょ!?」
「ま、強え方が良いってのは賛成だが、大した努力もせずに強くなるのは嫌いだね」
▽▽▽
モケは笑顔でそう言い放つ。
「そもそも、命符がどれだけ強かろうが、それにあぐらをかいてるやつは負けるのさ。俺の周りにも神やら概念やらの命符をもらって調子に乗ってるやつがいたが、全員のしてやったよ」
「……でも、それは、モケさんの命符が強かったからでしょ?」
イズモは未だに納得ができないようで、モケへ質問する。
「俺の命符はそこまで強くない、ありふれたもんだったしな。だから、強くしたのさ」
「え?」
「命符は成長する。どんなに弱い命符でも成長し、化ける。成長した命符は、時に神の御業としか思えない力を、所有者に与えるのさ」
初めて聞いた内容に、頭がこんがらがって困惑する。
「それとな、よく勘違いする馬鹿がいるが、命符に優劣はねぇんだ。命符ってのは所有者の本質を、個性を目に見える形に表したものに過ぎねぇ。それなのにあの命符が優れてるだの、この命符はダメだだの、それを審議する時点でお門違いさ」
モケはさらに続ける。
「そもそも、命符によって活かせる場面・状況は異なるからな。もっと言うなら、強えやつは命符云々によらず強え」
「む…… た、たしかに」
「わかったらとっとと修練しな。お、なんなら餞別代わりに俺が手合わせしてやろうか?」
「餞別代わりって…… 毎日やってるじゃんか」
イズモは毎日のようにモケに手合わせをしてもらってる間柄であり、有り体にいえば剣の師匠である。といっても、足さばきや剣術を手取り足取り教えるわけではなく、イズモが練習してる所にモケがふらっとやって来ては突然襲いかかられるのだ。
「なら、餞別ってことで特別に槍使おうか?」
モケの提案を聞いた途端、先程のワイバーンが頭に浮かんでしまい。顔を青ざめ、必死に首を横に振る。
「こ、殺す気!?」
「はははっ! 冗談冗談。俺が槍使ったら、餞別の内容があの世ツアーに変わっちまうわ。いつも通り、俺は素手、お前は魔法と木刀つかっていいぞ。一撃食らわした方の勝ちな」
モケは枝の上から降り、屈伸や伸脚をして準備運動を行う。その様子に、いつもながらこの老人は何を言っても聞く耳を持たないなと諦めたイズモは、仕方なく鞄の中から木製の小太刀を取り出す。
「お、今日も小太刀か」
「俺の剣速じゃまだモケさんを捕えることできないからね。なるべく速く振れる小太刀がいいかと思って」
「まぁ、懸命だな」
雑談をしつつも、イズモの脳内はぐるぐると思考を巡らせ、モケに対してどうすれば勝てるかを考えていた。今まで挑む(襲われる)こと5年、千を超える戦いをしてきたが、勝ち星はゼロ。モケの初撃で終わった戦いは9割5分、残りの5分も二、三撃目で終わっている。これ程の敗戦を積み重ねている理由は、ひとえに老人の規格外の反応速度と攻撃速度である。それがわかっているからこそ、勝つための策の1つとして攻撃速度の高い小太刀を構えたわけだが、それで勝てると思うほどイズモはこの老人を舐めてかかっていない。
「んー…… 【遊戯魔法】風蜻蛉 改式」
イズモが唱えた魔法は、【遊戯魔法】風蜻蛉。その魔法は地面に風を集め、蜻蛉のように空に浮くための魔法であり、その効果から子供に大人気の魔法である。しかし、その出力は弱く、地面から50cmほどしか浮くことができず、風を発生させるだけなのでコントロールは効かず、効果時間も短い。良くも悪くも遊ぶための魔法なのであり、戦闘に用いることはない。しかし、イズモがその魔法を使うと、炸裂音と共に鉄砲玉のように弾き飛ぶ。
「……圧縮か!」
突然の事に面食らうモケだが、流石は歴戦の勇士、すぐにその仕掛けに気づく。モケの推測通り、イズモの魔法の鍵は圧縮である。先の水鉄砲でも行っていたように、風蜻蛉を限界まで圧縮させ、踏み込みと共に解放する事で出力を上げている。しかしそれでも、モケを捕えることは出来ず、軽く避けられる。
「まだまだァ!【遊戯魔法】風蜻蛉 改式!」
イズモはすれ違いざまに、モケの足元に魔法を放つ。それはすぐに破裂し、圧縮された風がモケを空中へと吹き飛ばす。
「【遊戯魔法】水鉄砲 改式!」
宙へ浮いたモケ目掛けて、水鉄砲を乱射する。まだまだ未完成とはいえ、一撃もらえば負けのルールにおいて、まともな威力のものが紛れているため、一球も軽視できない。
「なめるなよ、イズモォ!」
モケは大気を殴ると、まるで空気砲のように殴られた空気が飛び、水玉の一つ一つを弾き飛ばす。
「【遊戯魔法】煙玉」
魔法で煙玉を作成すると、モケの落下地点付近に投げつける。地面に当たった途端に弾け、灰色の煙が蔓延する。
「ふん、関係ないわ!」
モケは地面に向かって、先程よりも大振りで、力を込めてパンチする。殴られた空気が地面に当たり、一瞬で煙を吹き飛ばす。
「はは! いい線いってたが、残念だったな!」
そう、猛攻をしのぎきったと確信したモケの胴を、風の速さで飛んできた小太刀が捉える。流石のモケも反応が遅れ、呻き声を漏らし尻もちを着く。
「ふふ、魔法で小太刀を飛ばしたんだ! あぁぁやっと勝てた!!」
「くっそ、油断した……」
今日も出来ました(3日目)