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4-6話 命響式(後編)

シオンはミラノに頭を下げ、謝罪の意を伝えると、咳払いをして仕切り直す。


「私はオレア・コラン学園、新任魔法教師のシオン・メディアです!」

「そ、そうでしたか。これからよろしくお願い致しますわね」

「ええ、こちらこそっ! いやぁ、四大貴族に英雄と会えるなんてっ! 今日は幸先いいなぁ!」

「シオンさん、その、英雄ってのやめてください。それは俺じゃなくて爺ちゃんの事ですから……」


シオンに英雄と呼ばれることを嫌がり、ルーはそう請う。


「ややっ! これは失礼っ!」

「シオンさん、ルーが英雄ってどういうことですか?」

「イズモくんは知らなかったんですねー。ルーくんのお爺さんは城塞都市国家ウルツァイトで英雄とされているお方なんですよっ! いやーっ、いつかお手合わせしたいものです!」


シオンは恍惚な表情でそう語るが、ルーの顔は引きつり、ひと目で困っているのが分かるほどだった。


「シオンさん、ルーが困ってるからその辺で。それより、シオンさんは何でここにいたんです?」

「あっ! そう、それですよそれっ!! あの後、先輩に仕事を押し付けられて、こうして警備をしてるんですよっ! 酷いと思いません!?」


鼻息荒く、自分がいかに酷い仕打ちをされているのかを熱弁するシオン。しかし、森での顛末を知っているイズモとマシロからしてみれば、どうせ何か怒らせるような余計な一言を言ったのだろうと推察する事は簡単な事だった。


「イズモ、イズモっ。そろそろ行かないと命響式に遅れてしまいますわよ!」


シオンと話し込むイズモの肩を叩き、少し焦った様子でミラノはそう注意する。


「えっ…… あぁ、そうか。ごめんシオンさん、そろそろ行かなくちゃ」

「いえいえっ! むしろ私の方が時間を取らせてしまいましたねぇ…… お詫びに、私が特等席へと送ってさしあげましょうっ! 」


そう言うと、シオンは紫の魔法陣を展開する。


「えっ、えっ、なんですの……!?」

「おじょー、これは……」


困惑する2人に対し、転移魔法を何回も見ているイズモとマシロは落ち着いた様子で魔法の起動を待つ。


「それでは4人っ! カタルーニャ大聖堂 最上階へとご案内~!」


5人は浮遊感を感じると、すぐに光に包まれその場から消える。次に5人が居たのは、城壁のように広がるカタルーニャ大聖堂が見えた入口ではなく、天井から色とりどりの光が降り注ぐ、多重階層のホールだった。その場所は吹き抜けとなっていて、最上階以外の各階層には各国から集められた子供達でぎゅうぎゅう詰めになっていた。


「こっ…… ここは……?」


マシロは辺りを見回しながらそう尋ねる。


「ここはカタルーニャ大聖堂 最上階っ! 職員や各国のお偉いさんしか入れないと……」

「お前は馬鹿かっ!!」

「いでぇっっ!!」


誇らしげに解説するとんがり帽子の女性は、鈍い効果音が聞こえるほどの威力でぶん殴られる。


「あっ、メトルさん」

「イズモ、マシロまた会ったな。そちらは…… サフィール家の令嬢と、コルダイン家のご子息ですね。私はメトル・アーサー、このアホと同じくオレア・コラン学園で教師をしている」


シオンを殴り倒した人物は、メトルだった。メトルは前に会ったイズモとマシロは勿論、初めて会うだろうミラノとルーに対しても知っているようだった。


「こ、これはご丁寧にどうもですわ……」


ミラノは何とか受け答えするも、その視線はメトルの足元、特徴的なとんがり帽子を凹ませられた上にメトルに踏みにじられているシオンに釘付けになっていた。


「そ、その…… シオンさんは大丈夫なんですの?」

「あぁ、大丈夫だ。こんな程度の事は日常茶飯事なのでな」


日常茶飯事という言葉で済ましているが、なんの躊躇いもなく女性を踏みにじっている光景は、そう簡単に見過ごせるものではない。


「っ! そんな事より、ルーやミラノはともかく、イズモとマシロはここから早く降りた方がいい」

「えっ、な、な、なんで、ですか……?」


メトルの警告に、不安げに尋ねるマシロ。


「シオンの馬鹿が連れてきたが、例年、カタルーニャ大聖堂の最上階は貴族のご子息が多く集まる。そういった方々の中には平民差別をするような阿呆もいるから、面倒ないざこざを避けるためにも早く……」


メトルが話終わる前に、カタルーニャ大聖堂内がざわめき立つ。その歓声は吹き抜けのホールの中央へ向けられていた。


「チッ、もう始まったか……」


そこには、白と金を基調とするドレスを纏った女の子が、白銀の杖を携え、ゆっくりとホールの中央に設置された祭壇へと向かって歩いていた。


「仕方ない、ここで命響式を受けるしかないか……」

「貴族絡みで何かあったら(わたくし)達がマシロ達を助けますわよ。幸い、(わたくし)は、そうそう舐められるような家柄でもありませんし」

「ミ、ミラノちゃん、かっこいい……!」


ミラノの発言に感激したマシロは、ぴょんぴょん飛び跳ねながら喜ぶ。


「まぁ、目立ちさえしなければ大丈夫だろう」

「メトルさん、今のこの状況的に既に注目を集めてんですけど。せめて早くシオンさんを踏むのをやめてくださいよ」


メトルに突っ込むイズモ。実際、突然転移魔法で現れた上に、メトルがシオンをしばいているせいで、イズモ達一行はある程度、既に周囲から注目を浴びていた。


「あぁ、悪い。忘れてた」


足をどけると、シオンは血管を浮き上がらせながら、ゆっくりと立ち上がる。


「先輩ぃ…… 今回ばかりは頭にきましたよ…… ちょっとツラ貸せやぁ……」

「ふむ。どうやらかなり頭にきてるようだ。悪いな、ご指名なんでちょっとばかし戦ってくる。くれぐれも、貴族達には気をつけろ」


そう言い残すと、2人はシオンの転移魔法によって姿を消した。


「イズモ…… 学園の先生は全員癖が強い人ばかりか…?」

「いや、俺に聞かれても困るよルー……」

「とりあえず、命響式に集中することにしましょう。

……ほら、キャロル様が魂呼(たまよ)びの(うた)を歌ってくださいますわよ」

「キャロル様……って、あの中央にいる女の子ですか?」


ミラノは頷く。


「キャロル様は去年から命響式を担当して下さってる、聖女様ですわよ。あの御方が歌ってくださる魂呼(たまよ)びの(うた)を聞くことで、命符を手に入れられるんですの」

「同じくらいの歳に見えるけど、凄いんだなぁあの人」

「キャロル様は私達と2つしか年は違いませんわよ。あと、キャロル様をあの人呼ばわりしてはバチが当たりますわよイズモ」


そうこうしているうちに、キャロルと呼ばれる少女は祭壇へと辿り着き、各方向へと一礼する。


「命響式を迎える皆様、おめでとうございます」


キャロルの声は魔法によって拡声され、囁くように話しているというのに、巨大なカタルーニャ大聖堂に心地よく響く。


「神の御加護を。命の御加護を。秘めたる己の才能を。そして――― 己の運命を、夢を、可能性を切り拓く力を」


少女は凛とした態度で言葉を紡ぐ。


「さぁ、目覚めなさい。無数の力を秘めたる若人達よ」


次で命響式終わるかなぁ……

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