4-1話 命響式(後編)
ローリエ中心街とカンランを繋ぐ橋。その橋上には、子供達を命響式会場へと送る専用の魔道列車が走る。魔道列車はその名の通り魔法を使った列車であり、魔法によって少し浮いているため、線路が要らないのが特徴だ。
その魔道列車の一角で、フードを被った少女は機嫌良く熊のぬいぐるみを抱きしめる。
「マシロ、そんなに気に入ったの?」
少女の横に座っていたイズモが声をかけると、少女は振り向き、向日葵のような笑顔で頷く。
「うん!」
「それなら良かった」
「そう言えば、イズモはどうやって銃の威力を強めたの? 私が使った時と全然違かったんだけど……」
マシロの問いに、イズモはちょっと考え込んだ後に口を開く。
「あの銃はさ、風を集める魔法と、それを発射する魔法の2つで出来てるんだよ」
そういいつつ、イズモは手のひらの上に魔法で風を集める。風たちは緑のエフェクトを伴いながら、小さな弾丸の形へと変化する。
「凄ーい!!」
「これが風を集める魔法ね。んで、発射する魔法はこう」
イズモが弾丸に手をかざすと、風の弾は勢いよくマシロへと飛んでいく。
「うぇっ!?」
マシロは素っ頓狂な声を出しつつ、飛んでくる風の弾丸から身を守ろうと行動する。しかし、それは杞憂で、マシロの体に当たった風の弾は、そよ風がぶつかった程度の威力しか感じなかった。
「射的屋の銃は今のよりもう少し威力高めで、ボールが当たったくらいの威力かな。でも、あの射的屋はインチキしてたから、当てても落とすことは出来なかったね」
「インチキされてたの?」
インチキの推理は店主にこっそりと話していたため、マシロは知らない。そのため、イズモの口からインチキという言葉が出て驚く。
「うん。予想だけど、魔法か命符の力でそのぬいぐるみに磁力を与えてたんだよ。磁力を与える魔法なんて知らないし…… 多分、命符の方かなぁ」
この世界で有名なインチキ手法としては、魔法によるものが多い。射的屋でいえば、ぬいぐるみの質量を増やしたり、材質を金属に変化させたり、風魔法で壁を作ったりと様々だ。今回は、落下時の不自然な動きから、イズモは磁力によって景品の固定を試みていたと予想していた。
「だから、まともにやってたら撃ち落とせないと思って、こうしたの」
イズモはもう一度風を集めると、イズモお得意の魔法圧縮によって風の弾を圧縮する。
「えっ!? すごい!?」
「やってる事は、花火を作った時と同じことしてるんだけどね。圧縮することで威力あげてたの」
マシロに説明しつつ、圧縮した魔法の形を変え、子猫を創る。その子猫はまるで意思があるかのようで、毛繕いをするとぴょんぴょんと跳ねてイズモの頭の上へ座る。
「わぁぁ…… かわ…」
「あっ、あっ、あなた!? それっ、ど、どうやってるんですの!?」
風の子猫に心を揺り動かされるマシロの声は、女性の声でかき消される。その声の方向を見ると、通行路を挟んで一つ左後ろの席の少女が、こちらに身を乗り出し、顔をのぞかせていた。少女の目は風の子猫を捉え、呼吸も荒く、興奮しているのがひと目でわかる。
「……え?」
「いや、え? じゃなく! その魔法と思えないほど自然で、伸びやかさを感じれる、可愛くて愛らしい子猫をどうやって作るんですのって聞いてるんですわ!!」
イズモとマシロの2人が呆気に取られていると、興奮する少女の隣に座っていた少年が少女を止めに入る。